第9章:忘却の海 ― 思い出に葬られた真実
この章では、レンが「意識的に忘れた記憶」ではなく、「自ら壊してしまった記憶」と向き合います。
プロト・レンの姿にも変化が現れ、物語は次の深層へと進みます。
「人は、いくつかの記憶を“忘れよう”とする。
だが、時には記憶の方が勝手に姿を消してしまう。」
マレア・トレムラの最後のゾーンは、音も光もなく始まった。
そこにあったのは、ただ「空虚」だった。
レンの周囲には敵も罠もない。
代わりに、どこかで誰かが語りかけてくるようなナレーションの声だけが響いていた。
「ようこそ、『忘却の海』へ。
ここには、お前が直視しなかった記憶たちが眠っている。」
通り抜ける景色は、色を失ったままのオフィス。
寂れた学生寮。照明の消えた病院の廊下。
どれも現実にあったようでいて、命の気配がなかった。
まるで感情を失ったバックアップフォルダのようだった。
その中心で、レンは一つのデータを見つける。
【メモリーファイル:重要/アクセス不可】
彼はそれを起動しようとする。
だが、画面にはエラーが走り、ファイルは拒絶される。
そのとき、現れたのはプロト・レン。
しかし、以前と違い、彼の目には悲しみが浮かんでいた。
「この記憶は、ゲームのせいで壊れたんじゃない。
……お前自身が、壊したんだ。」
「これは……何の記憶なんだ?」
「“感じる”より“失敗しないこと”を選んだ、その日だよ。」
その瞬間、周囲が崩れ始める。
建物が砂のように崩れ落ち、空間そのものが消えていく。
レンは迷わず、崩壊の中へと身を投じた。
すべてを思い出すことはできなくても、進むべきだと感じた。
【ROUND 3 クリア】
■ 結果:不完全な受容
■ 記憶回復率:60%
■ 解放されたトラウマ:[感情の自己否定]
お読みいただきありがとうございました!
次回から舞台は「クォーツ鉱区」――
記憶が凍結され、感情が鉱石のように削られる空間での新たな挑戦が始まります。
第10章「記憶の結晶採掘場」もぜひご期待ください。