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彼女が戦慄の戦乙女になった理由  作者: 滝川朗
第三章:害のない缶かん
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 僕はリッカの友達。

 僕は、リッカの、友達……。


 昼休憩の時間。

 フリンは、自分に必死で言い聞かせながら深紅のホームルームへ向かった。


 さもなければ、『深紅』の連中がたむろする巣窟などには乗り込めない。

 恐ろしすぎる。

 深紅クラスの連中と言ったら、ここにいる全員がレクサールや、リッカみたいなものなんだから……。

 好戦的で、唯我独尊の奴らだらけだ。

 褐色の対極にいる存在達だ。


 ええっと……深紅の一軍だよね……。

 深紅クラスは人数が多いので、一軍と二軍に分かれている。定期考査の度に入れ替わるのだ。

 深紅らしい、なんとも恐ろしいシステム。

 教員たちも好戦的に違いない。


「おっ、フリンじゃん、こんなとこでどうしたの?」

 知り合いのジェミニ・ドレーパーが声を掛けてくれた。


「助かったー死ぬかと思ったー」


「いったい何の話だよ……」


「リッカ、いる?」


 ジェミニは眉をしかめた。


「リッカぁー?お前、あのおっかない人となんか繋がりあったのか?」

 ジェミニは明らかに不審そうな顔をしている。


「と、友達だよ……僕は、リッカの、友達」

 フリンは何度も練習してきた言葉をぎこちなく口にした。


「いったい何のご用……?」


 一緒にお茶をしたり、こないだの一件で助けてくれたりしたから、少しは態度を軟化させてくれているのかと思いきや、リッカは相変わらずの不遜さでフリンを見下ろして言った。

 悔しいことに、リッカはフリンより背が高い。


「い、今から、一緒に来て欲しいところがあるんだ。必ず、昼休憩中に、終わる話だからさ。お願いだよ」

 フリンは祈るような気持ちで言った。


「構わないわよ。いったい、どこに行こうと言うの?」


 拍子抜けだった。

 この人が不遜(ふそん)なのはデフォルトで、別に機嫌が悪いわけではないみたいだ。


 フリンが選んだのは、学校の屋上だった。

 好きな女の子を呼び出すのは、学校の屋上って決まっているだろう。


 フリンの案内した先で待っていたのは、当然のことながら、フリンの親友、レクサール・エレンブルグだった。


 待っていたレクサールと、それを認めたリッカは、思わぬ場所で宿敵と出くわしてしまったかのように、揃ってぎょっとした顔をした。


「てんめえ……(はか)ったな……立派に役目を果たすんじゃなかったのか!」


「こんなことだろうと思いましたわ……浅はかなあなた方が考えそうなこと」

 リッカはため息をついて言う。


「いいからいいから。ほらほら。青春を謳歌するんでしょう?」

 フリンは手に持ったナインアータ&ティリンスの紙袋をレクサールに渡した。


 レクサールは膨れながらも、躊躇(ためら)わずそれを受け取った。


 そして、覚悟を決めたようにリッカに向き合う。


「この間は、ありがとう。本当に、助かった……それに……」

 レクサールは、膨れ面のまま、顔を赤くしてはにかんで言うのだった。


「うれしかった」


 そう言って、ぶっきらぼうに紙袋を突きつける。


「えっ……わたくしに……?」


 リッカは意外なほど、戸惑ったような様子で白い瀟洒(しょうしや)な紙袋を受け取った。


 洗練されたリッカの(たたず)まいにぴったりの紙袋だった。


「かわいい……」


 紙袋から取り出した、水色の缶を見て、リッカは顔を(ほころ)ばせる。


「ナインアータ&ティリンスね……」

 リッカが微笑んでいる……。


 二人が初めて目の当たりにする、リッカの掛け根無しの笑顔だった。


「あなた方にしては、なかなかセンスの良い品ですわ。気に入りました。……有り難く、頂戴いたします」


 な、なんなんだ、この雰囲気……。


 フリンは自分自身の行いが招いた、意外すぎる結末に心底驚いていた。


 二人とも、初心な恋人同士みたいにはにかみあってるじゃないか……!


 『脈アリ』だ……!


 これは、本当に、『婚約破棄』、起こり得るか……?


 いや、この際、『二番手』でもいいんじゃないか?


 べつに、学生同士なんだから、将来がなくたって。

 婚約者の目の届かない場所で、こっそり二股掛けてたって。

 やれやれ、アークライト・リッカ!


 フリンは二人の様子に、腹黒いにも程があるほどの、不謹慎な考えを渦巻かせていたのだった。


 その時、午後の授業の始まりを告げる鐘が鳴った。

 三人は、慌ててそれぞれの教室へと向かった。


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