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僕はリッカの友達。
僕は、リッカの、友達……。
昼休憩の時間。
フリンは、自分に必死で言い聞かせながら深紅のホームルームへ向かった。
さもなければ、『深紅』の連中がたむろする巣窟などには乗り込めない。
恐ろしすぎる。
深紅クラスの連中と言ったら、ここにいる全員がレクサールや、リッカみたいなものなんだから……。
好戦的で、唯我独尊の奴らだらけだ。
褐色の対極にいる存在達だ。
ええっと……深紅の一軍だよね……。
深紅クラスは人数が多いので、一軍と二軍に分かれている。定期考査の度に入れ替わるのだ。
深紅らしい、なんとも恐ろしいシステム。
教員たちも好戦的に違いない。
「おっ、フリンじゃん、こんなとこでどうしたの?」
知り合いのジェミニ・ドレーパーが声を掛けてくれた。
「助かったー死ぬかと思ったー」
「いったい何の話だよ……」
「リッカ、いる?」
ジェミニは眉をしかめた。
「リッカぁー?お前、あのおっかない人となんか繋がりあったのか?」
ジェミニは明らかに不審そうな顔をしている。
「と、友達だよ……僕は、リッカの、友達」
フリンは何度も練習してきた言葉をぎこちなく口にした。
「いったい何のご用……?」
一緒にお茶をしたり、こないだの一件で助けてくれたりしたから、少しは態度を軟化させてくれているのかと思いきや、リッカは相変わらずの不遜さでフリンを見下ろして言った。
悔しいことに、リッカはフリンより背が高い。
「い、今から、一緒に来て欲しいところがあるんだ。必ず、昼休憩中に、終わる話だからさ。お願いだよ」
フリンは祈るような気持ちで言った。
「構わないわよ。いったい、どこに行こうと言うの?」
拍子抜けだった。
この人が不遜なのはデフォルトで、別に機嫌が悪いわけではないみたいだ。
フリンが選んだのは、学校の屋上だった。
好きな女の子を呼び出すのは、学校の屋上って決まっているだろう。
フリンの案内した先で待っていたのは、当然のことながら、フリンの親友、レクサール・エレンブルグだった。
待っていたレクサールと、それを認めたリッカは、思わぬ場所で宿敵と出くわしてしまったかのように、揃ってぎょっとした顔をした。
「てんめえ……謀ったな……立派に役目を果たすんじゃなかったのか!」
「こんなことだろうと思いましたわ……浅はかなあなた方が考えそうなこと」
リッカはため息をついて言う。
「いいからいいから。ほらほら。青春を謳歌するんでしょう?」
フリンは手に持ったナインアータ&ティリンスの紙袋をレクサールに渡した。
レクサールは膨れながらも、躊躇わずそれを受け取った。
そして、覚悟を決めたようにリッカに向き合う。
「この間は、ありがとう。本当に、助かった……それに……」
レクサールは、膨れ面のまま、顔を赤くしてはにかんで言うのだった。
「うれしかった」
そう言って、ぶっきらぼうに紙袋を突きつける。
「えっ……わたくしに……?」
リッカは意外なほど、戸惑ったような様子で白い瀟洒な紙袋を受け取った。
洗練されたリッカの佇まいにぴったりの紙袋だった。
「かわいい……」
紙袋から取り出した、水色の缶を見て、リッカは顔を綻ばせる。
「ナインアータ&ティリンスね……」
リッカが微笑んでいる……。
二人が初めて目の当たりにする、リッカの掛け根無しの笑顔だった。
「あなた方にしては、なかなかセンスの良い品ですわ。気に入りました。……有り難く、頂戴いたします」
な、なんなんだ、この雰囲気……。
フリンは自分自身の行いが招いた、意外すぎる結末に心底驚いていた。
二人とも、初心な恋人同士みたいにはにかみあってるじゃないか……!
『脈アリ』だ……!
これは、本当に、『婚約破棄』、起こり得るか……?
いや、この際、『二番手』でもいいんじゃないか?
べつに、学生同士なんだから、将来がなくたって。
婚約者の目の届かない場所で、こっそり二股掛けてたって。
やれやれ、アークライト・リッカ!
フリンは二人の様子に、腹黒いにも程があるほどの、不謹慎な考えを渦巻かせていたのだった。
その時、午後の授業の始まりを告げる鐘が鳴った。
三人は、慌ててそれぞれの教室へと向かった。




