購入&起動
自分で言ってしまうのもなんだが僕「無野 漆也」はFPSが得意だった。そう特異と言い替えても不自然ではないほどに。
友達に誘われてすることになった、最初に触れたFPSゲームでは毎日自然にプレイしているつもりだったのに気づけばランカーに手が届きそうになっていた。
そのゲームは就活や卒論で忙しくしている間にサービスが終わってしまったが、その後も流行りのFPSやTPSは一通りプレイしてきた。その全てで最高ランクに辿りついていたし、あるゲームではアジア大会でベスト8に残ったこともある。
そんな僕にとってFPSは日常だった。他者を上回って当然のものだった。会社で自尊心を削りながら働いても銃撃戦を制せば楽しく暮らせた。
しかし時代は僕を置いてけぼりにしていった。開発された次世代のゲームシステム「完全没入型VR」あらゆる旧世代のゲームとゲーマーを置き去りにしたそのシステムはありえない速度で発達を重ね、五感の完全再現や体感速度の変化をも可能にしたのだ。
当然ながら格闘ゲームやFPSにもその波は訪れた。今までとは勝手の違う操作に加え、その臨場感と音。積み上げてきたエイム感や場所取りの定石は大きく揺らいでゆく。
結果僕はどうしても慣れる事がなく完全没入型VRに嫌悪を覚え、弱くなっていた。プレイ時間はどんどん減り、ある日全てのFPSをアンインストールしてゲームから完全に離れ引退した。
「FPSをしなくても死ぬわけじゃないし……」
間違いだった。僕は思ったよりFPSに依存していたらしいと気づけたのは引退してから半年は後。FPSをプレイしないと仕事から帰るたび、その日あった嫌なことを思い返してしまい寝付けない。
「流行りのゲームでも少しプレイしてみるか?」
引退したタイトルをもう一度遊ぶ気にもなれず、気を紛らわせるためにゲーム購入ストアを開き、人気ゲームのランキングと概要を見ていく。
目に止まったのは新作ゲームランキングの一位タイトル「Dominate and annihilate《ドミネート アンド アナイアレイト》」。「支配と殲滅」を意味するやけに物騒なゲームタイトルだ。
ジャンルは未分類。付けられているタグは▫️バトロワFPS▫️フルダイブ
「新作のバトロワFPSか…… SNSでもフォロワーから情報が流れて来てなかったはずなんだけど」
僕のSNSはFPS関係のフォロワーが大半をしめる。彼らはランキングに乗るような新作FPSが出たならプレイし、情報を流しているはずだとわずかな違和感を覚えた。
「面白かったら僕が感想を呟けばいいか」
仮にクソゲーでも呟くネタになるし、と僕は購入決定ボタンを叩きインストールを始めた。インストールの待ち時間に改めてSNS上のタイムラインを確認しフォロワーの誰かが関係しそうな発言をしてないか見た後に、Dominate and annihilate公式アカウントをフォローする。
公式アカウントの最新投稿を開けば
『新規マップ実装キャンペーン! この投稿を拡散&SNS連携で記念スキンGET』
の文字が目に入ってくる。新作ランキングに載っているゲームなのだからリリースからさほど経っていないだろうにアップデートとは随分と精力的な運営のようだ。
そのまま過去の投稿を見ようとしたところで、
『チュートリアルプレイ可能』通知が表示される。近年の通信速度は僕がゲームを遊び始めた頃の数千倍にもなっていて(最もゲームの容量も当時からしたらおぞましいほどだが)
何時間もプレイできるようになるまで、インストール画面を眺めて待つ事は無いといっていい。
「久々のFPSだ、慣れなかったフルダイブとはいえエンジョイしたいなぁ!」
フルダイブの為の機器を体に取り付けゲームを起動する。感覚調整の時間が挟まった後にDominate and annihilateのタイトルロゴが表示された。
「と、ユーザーネーム登録と利用規約の同意か」
眼前に現れた仮想のウィンドウに無野 漆也から取った「N78」とお決まりのネームを打ち込む。某光の巨人の出身地に寄せた名前だったが
『他のユーザーと重複しています』
システムに弾かれる。短く機械的な文字列だしそんなことも過去に有りはした。そのままネームに漢字を書き加え決定ボタンを押すと今度は通った。小学生の頃プレイしていたカードゲームにいたモンスターに近い名前だ。
利用規約をざっと流し読みし終え、同意したことでいよいよチュートリアルが開始されるようだ
『ようこそN78星雲人、征服者にして破壊者 支配者にして殲滅者よ』
『このDominate and annihilateの勝利条件はマッチでプレイヤー最後の1人になる事です』
今までプレイしてきたバトルロワイヤル式のFPSたちとどうやら勝利条件は変わらないようだ。珍しい点として最後の1人と言い切っているならば、このゲームに二人チームや三人チームは存在しない可能性があることだ。
もしくは実装されてもチュートリアルをソロしか無い時のままにしているのだろうか?
僅かに疑問を浮かべながらチュートリアルの説明を読み進める。
『プレイヤーは各地にある宝箱等から装備を集め、自らを強化し、時に他のプレイヤーを倒し、時には逃げ、生き延びることを目指します』
『マッチ中は体感時間を50倍に加速させることによって、充実したゲーム体験が可能になっています』
これは一回のマッチで仮にゲーム内で1時間かかっても、現実では1分と少ししか経過しない事を意味している。(近頃のゲームはこの体感加速時間をいかに速めるかを争ってるふしもある)
個人的には学生の頃のような時間は取れない以上このシステムには助けられている。フルダイブが好みではなくともゲームをしっかりしたい気分の際はフルダイブゲームをしてしまう理由がこれだ。
◾️
視界が暗転しチュートリアルマップに降り立つ。
「森の中かな?射撃チュートリアルにしては珍しい場所だねえ」
僕の記憶の限りではこの手のゲームで深い森で射撃訓練をさせることはなかった。白い部屋で的に向かって撃ったり、射撃場を再現したマップで行うのが通例のはずだが……。
『チュートリアル➊ ゴブリンとの戦闘を開始します』
「えぁ!?」
僕は小さなツノが生えた緑色の小人に撲殺された。
これは銃が手元に無いとフルダイブでは全く戦えない元FPS廃人が、生き残るだけで精一杯なとんでもバトルロワイヤルゲーム《Dominate and annihilate》を必死にプレイする物語だ。
「なんなのこの苦行ゲー?ガチサバイバルゲームの間違いじゃない……?」
最初はイキリキッズがシュミレーションゲームをMMOだと思ってプレイし、ブチギレ大泣きする作品にする予定でした。SNSで暴言を吐いては絡まれ、攻略サイトを見てはおすすめの戦略で負けてゴミサイトだと宣う感じですね。 多分サブキャラとして出します。