ヤシの実はどこから来た?
その日は休日で私は近所の川で釣りをしていた。
しかし、朝から糸を垂らしてはいるものの、竿はピクリとも動かない。
「全然来ないな・・・そろそろやめようか?」
腕時計の針はもうすぐ昼を指そうとしている。
「よし、やめた。・・・この後どうしようかなぁ。」
見切りをつけた私は、午後の暇を嘆きつつ釣具の片づけを始めた。
「ん?」
ふと川に視線を向けると川上から何かが流れてくる。
「なんだあれ?」
ちょうど近くを通過しようとしたソフトボールほどのそれを、私はタモですくってみた。
「なんでこんな物が・・・?」
タモに入ったそれはヤシの実だった。
「大海原を超えて流れ着いたか・・・ってここは川だ。」
何も考えずに出てきた言葉に対し、セルフツッコミを入れる。
「上流から流れて来たんだろうけど、ヤシが生えてるとこなんてあったっけ?」
記憶の中で川を逆上るが、再現度が中途半端な上、途中で完全に途切れてしまった。
「いや、待てよ・・・」
記憶に頼ることを早々に諦め、今度は想像力をフル稼働させる。
妄想開始。
ここは山の中にある川の上流。
川岸には茶色いハーフパンツに青いTシャツを着た、体毛の濃い長身の男が立っている。
そして、右手にはヤシの実が抱えられていた。
水の流れる音と鳥の声が響き渡る中、男はヤシの実を両手で頭の上に掲げる。
「そぉい!」
掛け声とともにヤシの実が水流に投げ込まれる。
そして、上下に浮き沈みしながら下流に向け流れていくヤシの実。
「私は何を考えているんだ?」
一通り妄想したところで私は正気に戻った。
「・・・あ、そうだ。」
そして、ある事を思いつく。
この実の出処をざっくりとだけど探してみよう。
早速、私は釣具とヤシの実を車に詰め込むと、自身も運転席に乗り込んだ。
そして、車は川沿いの道を上流に向けて走り出すのであった。