「口づけと共に死ぬ」-『ふくれあがった疑念』
レディが語った『レディ・オブ・ザ・ランド』というドラゴンの物語。その結末。
坊ちゃんはその物語を聞いて、トワのことを思い浮かべずにはいられなかった。
トワが言う、三つの言いつけ。
『門の外に出てはいけない』
『本名を名乗ってはいけない』
『外の者と関わってはいけない』
どれも、外の世界を、他者を信じない心が現れているように思えた。
坊ちゃんがトワに疑いを持った理由が二つある。
一つは角と尻尾。普段、尻尾はスカートの中に隠していた。
次に仮面。レディ・オブ・ザ・ランドは仮面を付けて姿を消した。
トワも徹底して素顔を隠している。
もし、仮面の下に、ドラゴンと人間が混じったような顔があれば――
「……」
考えるほどに、小さかった疑念が肥大化していく。
自分はトワという名の、角が生えて仮面で顔を隠したメイドのことを何も知らない。
彼女が何故食事を摂らないのか、何故眠った所を見たことが無いのか。
それらが必要ないからではないのか。
何故、自分は呼吸に持病を抱えているのか。
レディ・オブ・ザ・ランドの毒の息を吸っているからではないのか。
トワと両親の関係とは何か。どこで出会ったのか。
トワが何を想い、何を隠し、何故自分を育てているのか。
無視できないほどに膨れ上がった疑念と不信感が坊ちゃんの心を黒く塗り替えてゆく。
(彼女は、ドラゴンなのではないか?)
不信の深い暗がりに落ちかけた坊ちゃんの心をさらに奥へ誘うように、レディが坊ちゃんの耳元で魅惑の言葉をささやく。
「信じれば裏切られるもの。ボクのメイドは、ウソを吐いているんじゃない?」
「……わから、ない」
「なら、確かめればいいの。試せばいいのよ」
「……どうやって」
「私は本当のことを教えてあげるわ、ボク。こう聞くの――」
――お前は、レディ・オブ・ザ・ランドなのか、と。
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次話からは第3章となります。お楽しみに!




