第2話 セキュリティがばがば
「あれからもう2年経つのか」
妙に貫禄のあるしわがれた声でつぶやいたのは、声からは想像もつかないほどの巨体を誇る真っ白なひげを蓄えた人物。髪は見当たらない。
「正確には2年と数週間だけどね。それにボクにとってはすごく忙しい2年だったから、もうって程でもないかな」
小学生のような幼い印象をあたえる声でこたえたのは、少女のような見た目をした驚くほど真っ白な肌と燃え盛るような赤色の瞳と髪を持つ少年。その見た目からはとてもちぐはぐな印象を受ける。
彼らは「冒険者ギルド」と呼ばれる組織、そのトップである。
2年前、世界中にダンジョンが生まれた。
初めのころは混乱していたものの今では魔波の対処も迅速に行われるようになり、人的被害はでないことがほとんどだ。
魔波とはたまにダンジョン内から魔物たちがあふれだし、町の人々を襲う現象のことである。
一番最初の魔波の後、他のダンジョンでも同様のことが起こった。
最初のころは魔物に対して軍以外の対処方がなかったため世界各地で被害が絶えなかった。
この現状を打破すべく結成された組織がギルドである。
ダンジョンの中に入りステータスを得て、強くなって帰ってきた者たちが魔物という脅威に対抗するために集まりこの「冒険者ギルド」を創設した。
基本的にはダンジョンに入り、魔物の素材を集めて売り生計を立てる人々「冒険者」はこの冒険者ギルドに所属している。
この冒険者ギルドには魔物の最新の情報が集まっており、冒険者ギルドを通された魔物の素材は価値が保証されている。
よって魔物を売り買いするならばギルドを通すのが一般的となっている。
また、ギルドには様々な依頼が届く。魔波の際、討伐されそこなったはぐれの魔物の討伐依頼や街中でのお手伝いの依頼、ダンジョン内での植物の採取などがそれにあたる。
依頼は内容ごとにランクが分けられており、冒険者は自分のランクに合った依頼を受け、報酬をもらうことができる。
冒険者という仕事が増えたのはダンジョンができたことによる最も大きな変化のひとつなのではなかろうか。
「おぬし、なぜ帰ってきておるんじゃ?」
ダンジョン攻略の最前線に立つ彼らがギルド本部に帰ってくることはほとんどない。
ギルドの上位陣は基本的にどこかのダンジョンに籠っており、出てくることなどほとんどない。
「そろそろ新人武闘祭の時期だろう?うちのクランも新人の勧誘に動こうかと思ってね。君もかい?」
「あぁワシもじゃ」
「じゃあ一緒に今年の新人たちを軽く見にいこっか!もうはやい人は本部にあつまり始めてるだろうしね。」
「そうじゃのいくとするか」
___________________________________
「さ、なんとなくダンジョンの動かし方も分かったし、実際にやってみるか」
ハヅキの説明はとんでもなく長かった。
しかしなんとか全部の説明を聞き終えて、やっとのことでダンジョンを触らせてくれるらしい。
おかしいな、なんで僕がダンジョンマスターなのに尻に敷かれてんだろう?
まぁ、おかげさまでダンジョンに関しては大体覚えた。
まず、内装の変更。
部屋の追加と階層の追加ができ、各部屋ごとに環境を設定できる。部屋の大きさも変えることができるらしい。
入り口はハヅキによって外からはダンジョンであるとわからないようになっていた。
このダンジョンは洞窟型であり、山の入り口付近に存在していることも分かった。
ちなみに現在このダンジョンは入り口から入ったらそのままこの部屋、最深部に直行だ。セキュリティがばがばである。
「まずは部屋を増やさないとな、入り口からこの部屋までなにもないのはヤバすぎる。」
ちなみにハヅキは寝た。「3日も寝ていないなんて初めてです。」とかいいながら。俺の布団で。
なんだろう、俺の権能が影響を与えているのだろうか。
俺が2年間寝ていた間もほとんどは一緒に寝ていたようだし。
そういえば俺も眠い。
だがなるべく早くこのがばがばセキュリティだけはどうにかせねば。
手始めに100メートル四方高さ3メートルの部屋を生成、これを最初の階層とすることにした。
そして下の階層として第2階層、とりあえずここを今俺がいるマスター室にした。
どうやら1立方メートルの空間を創るにあたり1SP必要なようだ。計30000SP。痛い。
これで入ったら最深部のがばがばセキュリティが、入って100メートルくらい走ったら最深部というがばがばセキュリティになったわけである。
さて、どうしたものか。
ぱっ、と思いつくものだと迷路だろうか。
現在の第1階層はなにもないただの広い部屋である。
とりあえず、内装は後回しにして自分の召喚できる魔物を確認することにした。
「えっと、俺が召喚できるのは...」
【召喚可能な魔物】
LEVEL1
☆ヒュプノスライム
ハヅキの話によるとダンジョンマスターのレベルが上がると召喚できる魔物の種類も増えるらしい、現在召喚できるのはこのスライムだけっぽい。
とりあえず召喚してみるか、どうせ1種類しか召喚できないならば迷う必要もない。
召喚に必要なSPは1体30SPとかなり低コストである。とりあえず1体だけ召喚してみた。
「召喚:ヒュプノスライム×1」
するとなにもないところから、ぽよんっ、と丸っこいのが出てきた。
思ってた召喚と違ってびっくり。
ヒュプノスライムはぽよぽよしながらこちらに近づいてきて、膝の上に乗った。そしてそのまま動かなくなった。
「動かなくなった?どうしたんだ?」
たしかダンジョン内の生物のステータスはノートで見ることができるとハヅキが言っていたな。
ヒュプノスライムのステータスを確認してみた。
___________________________________
名前 なし | ヒュプノスライム 所属 第73迷宮 『終の迷宮』
状態:【睡眠】
レベル1
体力 5/5
力 3(0)
耐久 3(∞)
速度 7(0)
精神力 30/30
運 20
魂量 30/30
≪技能≫
・睡眠魔法
相手を【睡眠】状態にさせる。
・睡眠薬生成
睡眠薬を生成する。
適切な量摂取すれば快適な睡眠を。
過度に摂取すれば安らかな眠りを。
≪眷能≫
・睡眠
【現在使用可能な能力】
睡眠中は耐久が∞となるが、力と速度のステータスは0となり、行動不能となる。
24時間の睡眠ごとに基礎ステータスが1上昇する。
睡眠中は魂量、精神力、体力が徐々に回復する。しかしデメリットとして魂量が全回復するまで起きることはない。
魂量が1割をきると強制睡眠。
___________________________________
なんと寝ているようである。
さらに≪眷能≫とやらがあり、俺とまったく同じ能力がついているようだ。
技能も相手を眠らせることに特化しているようである。
過度に摂取すれば安らかな眠りを。とかいう明らかにダメそうなところがあるが気にしない。
ステータスに関してはスライムって感じである。
しかし、睡眠による基礎ステータス上昇という能力もついているから。成長の余地ありって感じかな。
にしても召喚して速攻寝るとは、どうなってんだうちのダンジョン。
かといって起こすのもなんだかかわいそうである。
どうしたものかと考えていると目の前がくらっとした。
眠気に限界が来たようである。
しょうがない俺も寝るか。
布団はハヅキにとられている。膝の上にはヒュプノスライム。
しょうがなく俺は座ったまま寝ることにした。
次に起きてからダンジョンいじればいいかな、とか思っているうちに意識が飛んだ。




