ディセンバー・ジェノサイド ー後編ー
後編とあるように、前編があります。まだ閲覧されていない方は、そちらを見てから
お楽しみください。
東暦1237年 12月25日。 午前2時34分。
「そろそろかの?」
「多分。刺した音が聞こえるから、この近くかと思うよ。」
予想は当たり、坂のところで止まったところ、突撃部隊が
テロリスト達の殲滅に当たっていた。
今のところ、死体はテロリストのものと思われるものしかなく、
みんなどこかしらに穴が空いている。
そこからダラダラと血を流して、倒れている。
「さて、わしらも行くか。わしに続けぃ!」
その掛け声と共に、付いてきた奴らは一斉に攻撃を開始した。
私も続いた。予想した通り、この作戦は
大虐殺に終わった。ゲリラの団は全滅。
こっちは軽症の人物が数名。
死者はいなかった。
とはいえ、裏切り者がいるので、どっちにしろ死人は1人だけ出る。
最近、銃なるものが開発され、特殊な弾も頂いた。
これで、その裏切り者を殺してこいと命令を受けたのだ。
そして私はこの銃をー
少佐の背中に向けた。
「うぐふっ!?」
放った弾丸は少佐の胴体に直撃し、少佐に膝をつかせた。
「何故じゃ、何故こんなことを・・・ああ」
胴体に当たっても死なない。流石は老兵といったところだが、
生憎、その特殊弾の効果、‘’腐食‘’によって段々と
体が朽ちてきている。
「死ぬ前に教えといてやる。お前は裏切り者になったんだ。
祖国を裏切り、敵国に塩を送った大罪人にな。」
女騎士が歩きながら、少佐にその言葉を告げた。
「あんたには感謝しているよ。この師団を作ってくれて、
うるさいながらも楽しくて・・・でもあんたはそれを裏切った。
私達を。」
「ああ・・・バレとったんか・・・やっぱり、年をとると、
こういうことはするもんじゃないな・・ゲフッ、グフッ!」
やっぱり、裏切り者とはいえ、仲間を殺すのは癪に触る。
こういうことはしたくなかった。
「最後に言い残すことは?」
「聖域は、勇者に託された・・・陛下に、そう伝えるのじゃ。
わし以外にも、裏切り者がいることを教えてやってくれ。」
私の足を掴みながら、少佐は口にした。
言い終わった瞬間、私は少佐の顔面に弾丸を放った。
「う・・・」
たったそれだけ、あっけない最期だった。
人とは例えどれだけ偉大でも、こんなにも
あっけないものだと思ってしまったものだ。
「やっと死んだか・・・
大っ嫌いだったよ。あんたのその存在そのものが・・・
でも、私をここまでここまで来させてくれて、ありがとう・・・」
その後、女騎士は少しむせび泣いていた。
私には分からない。
何故泣くのか。私の荒んだ心では、
そんなことは分からないらしい。
「全軍に次ぐ!作戦は終了、裏切り者も、処分した!
仕事は終わりだ!思いっきりクリスマスを楽しんでこい!!」
普段なら狂喜乱舞する軍の皆様方だが、
今日は誰も応答しない。予想はしていたけども。
みんな大好きな少佐が裏切り者だったのだから。
その後、私は皇帝陛下に遺言を届けに
城までやってきた。
が、最近皇帝陛下は寝たきりらしく、代わりに陛下の妹が
やってきた。
「それで、その裏切り者が遺した言葉とは?」
「はっ。‘’聖域‘’は、勇者に託された。私以外にも、裏切り者がいる。
と遺して死んでいきました。」
しばらくその人物は考えて、そして言葉を発した。
「恐らく聖域というのは、聖剣テメノスの事じゃろう。
数日前から行方不明になっていたのじゃ。まさか、よりにもよって
東の勇者にもたらされることになろうとは・・・」
聖域とは、どうやら剣の事らしく、恐らく少佐の言っていた
別の裏切り者が流したものだろう。
「東の勇者、と言いますと?」
「ああ、あちらには、百年に一度、戦士として最強の存在
が産まれるという言い伝えがあるのじゃ。それが勇者ということになるのじゃ。
ただ、勇者が手に入れてしまえば、恐ろしい武器となるのが、
その聖剣テメノスということじゃのう。」
「では、それが渡っては、東の共和国の連中は、図に乗って
進行してくる可能性が・・・」
実際、東の共和国は、平和主義こそ抱えているが、無抵抗主義でもなければ、
非戦争主義でもない。そのうえ、政治上層部は腐敗政治を続けているなんて
いう噂もあるほどだ。
「安心せい、アレには対となる剣がある。その名を‘’魔剣ネメシス‘’という。
姿形は一緒だが、色や付与されているスキルに相違点がある。」
「それは、どちらが優秀なのでしょうか?」
「さぁ?優劣に関しては、そもそもコンセプトが違うからのう・・・
テメノスは‘’剣として最強の剣‘’として作られたのに対し、ネメシスは
‘’敵となるものを確実に殺す兵器‘’として作られている。
性能重視のネメシス、ロマン重視のテメノス。と言ったところか。」
剣ということにこだわって作られたのがテメノス、プライドも
剣という誇り高き存在そのものもかなぐり捨てて作られたのが
ネメシス、ということなのだろう。
「あと、裏切り者の件に関しては、こちらで処理しておこう。
そうだ、直接殺ったことについて、褒美をやろう、
何なりと申すが良い。」
ここで私は考えた。
「実は、私は軍を抜けようと思っているのです。
また、実家はボロボロで、悲惨な状態になっています。
できることならば、静かな場所に暮らしたいと思うのです。
なので、山奥に、新しい家を建ててはくれないでしょうか?」
「うーむ、貴様ほどの優秀な人材を手放すのは惜しいが、
我々は個人の意見を尊重する。よって、その願い、承ろうぞ。」
「ありがたき幸せでございます。」
「なに、妾とて、ちょいとばかりの権力は握っておる。
そんなことをするのは造作もない。ついでに
退職金も少し増やしてやろうぞ。」
新しい実家と、ボーナス入りの退職金の入手が完了し、
私は、姉妹らとともに、新しい実家へ向かうことにした。
城門をくぐる途中・・・
「隊長、本当に軍を抜けたのですか?」
「ああ、やっとあの色々くる職場とはおさらばだ。
もう血と硝煙の匂いを嗅ぐことがなくて済む。
もう誰かを殺さなくて済む。こんなに嬉しいことはない。」
「・・・」
「まぁ、遊びには来てやるよ。」
「・・・勝手にしてください。」
どうやら少しお怒りのご様子だ。
「おーい、聞こえてっか。さっさと行こうや。」
「・・・ああ、そうだな。」
東暦1237年。12月31日。
私たちの自由がやってきた。