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日々の暮らしに戦闘を  作者: どんぐり
戦闘好きな2人
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「なんて、強いんだ」



その騎士を見た時、微かな震えと共に身体中を波打つ何かが駆け走る。

その目は、大勢の観客と共に中央の騎士に注がれる。


国内最大級の大会において、国内一と歌われた王宮魔導師を敗北させたその戦士は、会場は熱気や歓声を感じさせないほど纏う空気は静かだった。


中央に佇む騎士は細身の長剣の汚れをさっと降って落とすと腰に戻す。その流れる動作さえ所作のようで驚く。


高く一つに結われた黒髪をなびかせてこちらを振り向き、恭しく最上位の礼をした。目があったと一瞬思ったが、すぐ前の男の声で居住まいを正す。


「これより、大会の閉会を示す!」


大声で叫ばれた声で、すぐさま騒がしい音が静かになった。会場の視線がこちらに向くと1人の年若い青年が前に出る。

「今回の大会は素晴らしく、楽しいものであった。負けたもの、勝ったもの、どちらもこれからのカレクシア・サラルを素晴らしい国にしていくと信じている!」


青年は懐から長剣を取り出すと天にかがげる。


「カラクシア・サラルの為に!」


「カラクシア・サラルの為に!」


声を高らかに王子が締めの言葉をかける。観客は皆自分の武器を握り、空いた手を胸に寄せながら王子の後に続く。

その後すぐにまた熱狂に包まれた。


王子がくるりとマントを翻し会場を後にする。俺は、黒髪の騎士を目にやきつけ王子の護衛の中に混じった。




ソファに重い体を預け王子は紅茶を所望した。瞬きの間に王子の前に紅茶が用意されくつろぎの時間が作られる。その中にいる俺は、護衛騎士の1人だ。

そうは言っても一二人の中の下っ端だけど。


今回は、上位の騎士が大会に出るということで4人の中に選ばれた。最上位のルーサー・ハーバード団長はラティアス・カラクシア・サラル第一王子の腹心であり、今回の護衛でもある。


「疲れるな。毎回あの熱狂の中にいると」

「しょうがないだろう。王子が皆の求める大会にでなくてどうする。関心力の高い場所で次期王子たる顔を見せておくことが大事だろう」

王子がため息をつく。それを嗜めるようにルーサー団長は続けた。

「まぁ、あの場所で威厳を保ちながらいることも疲れるとは思うがな」

うなづきながらラティアス王子は優雅に紅茶を飲む。

「しかし、今回の大会はすごかった。あの黒髪の騎士は、キーラン・クランシアだったか?近年稀に見る強さだな」

俺はその名前を頭に刻み込む。


「ああ、初めてにして優勝とはやってくれる。」

「ニコラスも、ニールもやられるとは…。驚いたものよ。彼についての情報はあるのか?」


護衛の中でもルーサー団長に続く実力者が倒されたことは、俺も心底驚いた。強さは身をもって知っていたからだ。だからこそ、黒髪の騎士の情報を聞き出そうとするのは、俺にとってありがたかった。


「いや、全くないに等しいな。そうだ、レオン。お前はなにか知っていたか?」


ルーサー団長は、思い出したように俺に声をかけた。一瞬驚いたが、ラティアス王子の手前外に出さず話し出す。


「いえ、始めて知った者でして、存じておりません」

「そうだったか。戦乱狂も知っていないとなるとダークホースだったか」


戦乱狂という言葉に苦笑をするが、否定はしない。マティアス王子の前だけでなく、そう思われる自覚はあるからだ。



強い者を見つけると、様々な伝手を使い戦いを挑みまとわりつづけ戦い続ける。朝から何周も走り素振りをし魔法を寝る練習をし、そのあと皆と同じに訓練に入り、夜は自主練をし強い者のところへいき教えをこう。なによりも強くなることに貪欲で、戦いを好む俺を戦乱狂という名がつく事は早かった。

正直イかれてるやつみたいに言われるの嫌だけど。


戦いを挑むために強い者の情報を知らなければ挑戦はできない。その為に日夜、強い者の話を聞きまわっている俺だからこそ聞かれたのだろう。


「彼もかわいそうだな。レオンに戦いを挑まれる様子が目に浮かぶぞ」

マティアス王子の整った容姿がからかうように笑う。

「違いないな。俺も辛かったもんだ…」

思い出しているのか顔が歪んでいる。俺は申し訳ないと思いつつ開き直る。


「あの時は、幼かったのです。自室でくつろぐ団長や休憩時間、風呂、トイレまでも迫ったのは申し訳ないと思っていますし、強くなるためにはしょうがなかったのです。それに、もうそんなことはしません」


そう、その時は自分の弱さに焦っていたし、何より強い人と戦うことについて舞い上がっていた。しかし今は団長の下で訓練を受けることで感情を抑えることは容易になっている。

「風呂やトイレまでもか…」

マティアス王子が呆れと笑いの混じった声で呟く。


あ、そこは言わなければよかった…。


「とりあえず、迷惑にならないように気をつけろよ」

「はい、わかっております」

もう、そんな愚行はおかさないだろう。きっと…。強い人を見るとちょっと自分でもおかしくなるからわかんないけど。


そんな様子の俺を見て、アーサー団長は呆れ顔だか、マティアス王子はふふっと笑った後紅茶を飲み干し今後の日程表に目をやる。

そろそろ宰相や大臣らが来る時間だ。俺は定位置に戻り、護衛に徹する。


しかし、一度見たあの騎士の動き方が頭をよぎる。すぐに頭を切り替える。そして決意した。


絶対、後で戦いを挑もう


レオン・オーウェンの頬は緩み、目にはゆらりとゆれる熱のようなものが込められていた。


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