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5、ノエルの嫁入り②

「久しぶりだ。我が親友!」


 剣士ミランダは迷いなく、ノエルに抱きついた。ミランダと魔法使いのノエルは仲が良い、ということに表向きはなっている。ノエルの高等魔法にはミランダは何度も助けられてきた。ミランダはノエルに感謝している。そういうことになっている。しかし、実態はミランダは心の中でノエルに嫉妬し、憎悪していた。


「ミランダ、お会いできて嬉しいです」


 ノエルも微笑むが、目は笑っていない。やはり、ノエルは怒っているのだ。居並ぶ客たちは(きも)を冷やす。


「素晴らしい。勇者パーティー感動の再会ですねっ」


 甲高い鼻につく声だった。女は進み出ると、ノエルとミランダの肩をぽんぽんと叩く。


「ホ―ネッドさんとノエルさんのご結婚、このイリスがお祝いします。おめでとうございます」


 フードを上げた若い女に客たちがはっとなる。


「皇女殿下」


 貴族の一人が(つぶや)いた。シュ―バリア帝国の第五皇女、イリスだ。穏やかな表情が彼女の温厚な性格を表現している。各国の王族・貴族から求婚が相次ぐ()()である彼女は皇居の奥深くに滞在しているはずだ。それがなぜ。


「今回、ノエルをホ―ネッドの夫人となるように勧めたのは他ならぬ(わたくし)です。ね、ホ―ネッド?」

「はっ、ノエルを妻に迎えるように助言して下さったのは皇女殿下でございます」


 ホ―ネッドが(ひざ)を折り、(こうべ)を垂れて答える。


「私はノエルの味方です。ノエルを平民の出身といって、いじめることは許しません。ねえ、ミランダ?」

「も、もちろんでございます。皇女殿下。誰がそんな大それたことを」


 皇女はにっこりと笑う。策謀家の姉たちと違って、第五皇女は地味な存在だった。その印象を一変するように皇女はミランダを(かしず)かせた。ノエルの後ろ盾にはイリス皇女がいる。そのことを客たちに印象付ける祝いの席となった。貴族たちがどよめく。


「やはり、皇女殿下は聡明であられる。勇者と剣士を従えておるのだからな」

「あの知略は他の皇女殿下に匹敵しよう。しかし、何とかわらしく、美しい。わしはこの婚礼に来て良かったわい」


 貴族たちがイリス皇女をほめたたえる。イリスの口元がわずかに上がりそうになるが、修正される。


「さあ、婚礼をはじめましょう」


 イリス皇女の声に貴族たちが拍手する。こうして、ノエルとホ―ネッドの結婚式が行われる事になった。









 薬師フィーネは唇を噛みながら、ノエルに運ばれる飲み物を凝視していた。二人は結婚祝いの酒を口にすることになっている。


 そして、そこには毒が混入されているのだ。眩暈がするほどの弱い毒だが、ノエルは倒れるに違いない。


 だが。


(解毒剤を入れたから何ともないはずよ)


 フィーネは固く拳を握りしめる。国家の英雄・ノエルに毒を盛ることなど、できようはずがない。


(私を舐めないでちょうだい。ミリンダ。あなたみたいなクズに私は従わないわ)


 フィーネはノエルのことを尊敬している。そのノエルに毒を盛ることなど、ミリンダの命令でもできるわけがない。


(幸い、イリス皇女殿下がおられる。あの賢そうな皇女殿下にミリンダの悪行を話せば、ミリンダは終わる。待っていなさい、ミリンダ。もうすぐあなたに神の裁きが下るわ)


 フィーネは笑いをこらえながら、ミリンダを見ていた。


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