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3、罠

今回は勇者サイドの話になります。

勇者ホ―ネッドは豪邸に住んでいた。妻である剣士ミリンダとは同じ部屋に住んでいる。ミリンダとの結婚式は諸侯貴族を呼んで盛大に祝われた。その後、ホ―ネッドに与えられたのはこの豪邸と伯爵領であった。


 使用人は百人を超える大所帯、専属の薬師までおり、二人の結婚生活は順調な滑り出しをはじめた。


 そんな中、ホ―ネッドは真夜中に目を覚ます。隣にはあられもない姿のミリンダが寝息を立てていた。ホ―ネッドは物音を立てないようにベッドをするりと抜け出す。


 寝付けない。


『ほら、勇者様、二人で寝るとあったかいね』


 優しいノエルの声色がまざまざと蘇って来る。最初は二人だけのパーティーだった。優しいノエルの性格に魅かれ、ホ―ネッドはノエルに恋をした。


 ホ―ネッドにとって、何物にもかえがたい宝石に似た存在、それがノエルだ。あまりにも神聖にして、清楚な少女・ノエル。ホ―ネッドは今でも彼女のことを大切に思っていた。


「ノエル、ああ、ノエル・・・・・・早く会いたいよ・・・・・・」


 ホ―ネッドは一人、ノエルのことを思い続けるのだった。


 だが、ホ―ネッドは気づいていなかった。その姿を誰かに見られていることに。










「そうか。ホ―ネッドがそんなことを」


「はい」


 剣士ミリンダは工事中の屋敷を見ていた。ノエルを迎えるための第二夫人の新居。ホ―ネッドが新領地の視察のために出かけているので、ミリンダが工事の指揮を取っている。


 ミリンダに情報を伝えて来たのは薬師であるフィーネだった。新人である彼女の腕を見込んで、ミリンダが帝都から連れて来たのだ。


「ありがとう、フィーネ。あの日もホ―ネッドに眠り薬を盛ってくれて感謝している。あなたが院長の病院の開設には資金を供出させてもらうわ。お父様が負った莫大な借金の返済の足しにしてくれていい」


 あの日、というのはホ―ネッドとミリンダが婚約発表した日だった。フィーネはホ―ネッドを眠らせて、ノエルのところに行けなくしたのだ。おかげで何の説明も受けなかったノエルは故郷に引っ込んでしまった。


「ありがとう、ございます」


 フィーネがびくつきながら、頭を下げる。


「そう、怖がるな。裏切らない限り、お前には危害は加えない」


 ミリンダはにやりと笑うと、ノエルの新居を見た。


「ノエルというクズ女がもうすぐやってくる。罠が張ってあるとも知らずにな。あの女のデカ乳でホ―ネッドは誘惑されているだけだ。身分の低い田舎娘に私が負けるだと。絶対に許されないことだ」


 ミリンダはホ―ネッドに見せたことのない憎悪に満ちた目で新居を見る。


「あの乳牛が罠とも知らずにのこのことやってくるんだ。笑えるな。この新居にも地下には拷問室がある。たっぷりとかわいがってやる。簡単には殺さないぞ。絶望と希望を交互に与えて、ホ―ネッドに言い寄った淫乱な乳牛に天誅を与える」

「あ、あのノエル様は拷問する為に呼ぶのですか」


 おずおずとフィーネが尋ねると、ミリンダは笑む。


「もちろんだ。ホ―ネッドもあの乳牛の本性を知れば、愛想を尽かす。そうすれば、ホ―ネッドは私だけを見てくれる」


 恍惚(こうこつ)とした表情になるミリンダにフィーネはびくびくと小刻みに体を震わせるのだった。


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