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2/5

2、放心

勇者ホ―ネッドの婚約は帝国全土を驚かせた。勇者パーティーはそれぞれ爵位や領地をもらい、貴族となる者。資金をもらって、大金持ちとなり、商会を開く者などそれぞれに多額の報酬があった。


 そして、魔法使いのノエル・オテュアスといえば・・・・・・


「姉さん・・・・・・昼間っからベッドで(もだ)えるのをやめてくれよ。仮にも国を救った英雄様なんだからさ」


 ノエル・オテュアスはその美しい薄桃色の髪をベッドにたなびかせながら、天井をボ―ッと眺めていた。時々、何かを思い出したかのように身悶える。

ここはノエルの実家であり、農業を主要産業とするのどかな村だ。ノエルの弟・エドモンド・オテュアスはそんな姉を冷ややかなに見下ろしている。


エドモンドには姉のような魔法使いとしての能力は低い。そのかわり、勉強はよくできた。姉が読み終わった魔道書なども保存して、勉強に励んでいる。


「エド君、ノエル姉さんも傷ついているんだから、そういう言い方はよくないよ?」


 エドモンドの横にいた緑髪の少女が笑いを含みながら、言った。この村一番の才女で村長の娘であるアリスだ。エドモンドの恋人で将来を誓い合った仲でもある。つまり、ノエルとは違って、この二人の将来は明るい。


 年下の二人に顔を覗き込まれたノエルはむっくりと起き上がる。


「ああ、もう昼よね。勇者様のお食事を作らなくちゃ」

「姉さん、しっかり!勇者様はミリンダ様と婚約したんだよ!」


 我を失った姉の肩をつかみ、グワングワンと揺する弟。目の焦点の合っていないノエルはうわ言のように「勇者様・・・・・・」とつぶやいている。


「義理の姉になる人が勇者様に捨てられて廃人になってしまった件について」

「アリス、こんな時にふざけないでくれえっ」


 アリスが舌を出して、コツンと自分の頭を軽く叩いた。


「ああ、どうすりゃいいんだよ。このまま姉貴のコネで貴族になろうとしてたのにィ、こ、これじゃあ俺の人生がこんなド田舎で終わっちまう」


「大丈夫よ、エドモンド。私は一生あなたの側にいぐえっ」


 アリスは転倒した。そして、女たちに踏みつけられる。


「何なんですかっ、あなたたちは。人の家に土足で入り込んできてっ」

「見て分かりませんか。魔法使いです」


 リーダーらしい女がフードを取ると、赤髪の整った容姿の女性が顔を出す。怜悧(れいり)で頭の回転の速そうな女性である。


「エド・・・・・・ちょっとくるじい。助け」

「お美しい。失礼ですがご結婚されているのでしょうか」

「無視ずるなー」


 バタバタと手足をバタつかせるアリスを無視して、エドモンドは頬を染めて、女魔法使いの右手にキスをする。


「いえ、結婚しておりません。彼氏いない歴二十五年。魔法研究一筋ですので。ちなみに彼氏募集中です」

「リーダーっ、そんな聞かれていないことをぺらぺらと喋らなくてもいいですって。こほん、我々は元勇者であるホ―ネッド伯爵様の使いの者でございます。伯爵領にノエル様をお迎えせよと」


 隣の眼鏡女子がリーダーの赤髪の女にかわって、用件を言った。エドモンドは目を見開く。


「我が姉を、でございますか。なるほど、貴族諸侯を集め、姉の体たらくを見せびらかして、笑い物にしようと」

「違いますっ。伯爵は妻としてノエル様をお迎えしたいと、我々魔法旅団をこの村に派遣したのでございます。ミリンダ様が第一夫人、ノエル様が第二夫人となります」

「な、何ですってっ」


 エドモンドは震えた。そして、姉に近寄る。


「姉さん、良かったね!勇者様が姉さんを妻に迎えたいってさ」


 耳元で大声で伝えると、ノエルの瞳に徐々に光が戻っていく。


「ユウシャサマガホントウニ?」


「ああ、そうだよね、眼鏡魔法使いさんっ」

「私のことですか。その眼鏡って。それとノエル様の壊れっぷりが怖すぎるんですが。これってあれですよね。ホ―ネッド様とミリンダ様かなり恨まれてますよね?・・・・・ええ、本当です。ねえ、リーダー?」

「うん」


 簡潔明瞭にリーダーの赤髪の魔法使いは言った。


「さあ、ホ―ネッド様のお城に向かいましょう。ああ、もちろんご家族も同行されますよね?」

「ええ」


 エドモンドはうなずく。こうしてノエルの嫁入りが決定したのだった。


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