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イートニャン  作者: 坂本龍馬♀
―チベット―
98/273

ポタラ宮殿



宮殿内に案内された一行は、

ソンツェン・ガンポ王たちと

向かい合う形で円形の机を囲み、

茶を飲んで一息着く。



「……フム。

これが東洋の茶か」



「いやいやw

茶のわりには妙に

油ギッシュじゃない!?」



「バター茶ね……!

この時代の吐蕃とばんと唐は

茶馬交易をしていて、これは

その産物なんですよ」



ドラクルとイートニャンに

茶の解説をする八百。


どうやら組織同士の交流で

飲んだ事がある様子であった。


一行が外の寒さを忘れ、

落ち着いたところで老王が脇に

控えていた美女二人に目配せをする。



「さて、申し遅れました、

妾は文成公主ぶんせいこうしゅと申します」



色白の仙女が名乗る。



「妾はティツムと申しまする」



続いて褐色かっしょくの仙女が名乗る。



「文成公主は東の唐王朝から、

ティツムは西のネパールから

ワシのきさきとして迎えたのじゃ」



ソンツェン・ガンポ王が自慢げに語る。



「まったく、いい時代だわ。

若い美女を二人も奥さんに

出来るなんてさ☆」



「ふぉふぉ……

誉め言葉として受け取っておこう」



老王の笑い声のもと、

和やかな雰囲気で紹介が

終わろうとしたその直後、

地響きが断続的にする。



「……揺れが多いな」



フェノメノンが静かに呟くと

うれいを帯びた表情で

ティツムがテーブルの下から

大きな巻物を取り出し、

おもむろに広げて見せる。



「これは羅刹女らせつにょの仕業です」


「……我が国を苦しめる悪魔の正体じゃ」



柔和な表情の

ソンツェン・ガンポ王が

初めて険しい表情になる。


広げられた巻物には、

一瞬地図でも描かれて

いるように見える。


が、それはチベットの高原

全てをすっぽり包み込むほどの

大きな女型の魔物が仰向あおむけに

なっている姿が巻物いっぱいに

描かれている絵であった。


この仰向け姿は

仰臥図ぎょうがずと呼ばれ、


その魔物の体の内側に

ラサを中心にチベット高原と、

その中に点在する幾つもの

街や仏塔などが、


地図を俯瞰ふかんするかのように

魔物の体の中に納まり描かれている。



女形の顔は、

血走った大きな眼球をむき出しにし、

ギラついた歯を見せつけていた。


四肢の先にある手足をばたつかせ

今にも身を震わせて暴れ出しそうな、

そんな鬼気迫る構図なのである。


この仰臥図ぎょうがずを民は

羅刹女らせつと呼ぶのであった。



「ふぅん。

これは悪魔シードなんですかねぇ?」



「……デカ過ぎだろ。

牛魔王の何倍あんだよw」



「こんなのが相手とか、

あたしでも完食は無理。

別に大食いじゃないんだから!」



しかし、この構図を見て羅刹の強大さ

以外の意味をみ取った者もいる。



「随分大掛かりな結界図ですね」



ピンときたような表情で八百が呟き、

その言葉にソンツェン・ガンポ王が

感心した様に頷く。



「ほお、これを見た

だけで結界と分かるか」



「はい、四方の仏塔を

羅刹へのくさび代わりにし、

国そのものを結界とする禁術……

恐れながら初めて見ました」



八百の言葉の通り

羅刹の図をよくよく見れば、

四肢を仏塔のようなもので封じて、


その戒めから脱しようと、

もがいているようにも見える。



「左様、東西南北の四つの仏塔と、

このポタラ宮を中心に起動する

強力無比な大結界じゃ。


今は羅刹女の本体を

地の底に留めているが、


禁術を解き地上に

引きずり出す事もできる。


だが国を挙げて仏国土を

築くため、こやつを封印するのに、

えらく時間が、かかったわい」



「引きずり出す……

たしかに、いくら

デモンイーターがいても、

結界によって地の底に

いつまでも留めていては

手が出せないですからねぇ」



ホムンクルスが納得した様に頷く。



「これほどまでの結界がないと

封じる事ができない悪魔か。

余が秘伝書ネクロノミコンで全力を出したとしても、

その結界を破れるか厳しいものだ……」



大魔王であるドラクルでさえ

渋い顔をさせる現状に、更に

ティツムが厳しい現実を付け加える。



「しかし最近はその結界も

羅刹女の眷属が暴れまわるせいで、

魔を戒める力が弱り始めておりまする。

いずれ破られた場合、この国は終わるでしょう」



「……って事は、さっきの

地震もそれが原因かよ!?」



悟空もうんざりして

頭を抱えてみせるが、


ソンツェン・ガンポ王はというと、

デモンイーターであるイートニャンらに

期待をかけているのか、

暗い顔をせずにいるのであった。



「なに、こうして悪魔食らいの

猫がやってきたわけだしのぅ。

ようやく悲願であった羅刹女を

倒す事ができるというもの」



「……んじゃ、チャチャっと

その結界ちゅーのを解除して

羅刹女とやらを出しなさい。

はぁーまったく、あんなデカいの

どう調理しようかしら★」



「それが……」



はやくも献立こんだてを考える

イートニャンにティツムが

気まずく言葉に詰まる。



「結界の解除には東西南北の

仏塔へ直接、おもむき、

かつ4つとも同日中に解除

しなければならないのです」



代わりに言葉を継いだ文成公主が、

更に事態が厄介である旨を説明する。


どうやら1つでも解除が欠ければ

再び翌日に全てのロックが、

かかるシステムらしい。



「だとすると、僕たちが

一つ一つ回っていては、とても

一日では終わりませんねぇ」



冷静に感想を述べるホムンクルスに、

イートニャンが身もだえする。



「じゃあ、どーすんのw」



「……このメンバーを四つの

パーティに分け、それぞれが

結界を解除させるしかないだろう」



余りにも厳しい現実を

口にするフェノメノンに、

ソンツェン・ガンポ王が

厳かに頷き肯定する。



「結界を解く鍵はこれです……」



ティツムが動物の頭が付いた

矢のような物を四つ取り出して見せる。



「ワォ、アニマルヘッド!

とってもファンシ~(#^.^#)」



「魔を調伏する法具じゃ。

名を獣頭金剛橛プルパという。

これを差し込めば、その仏塔の

結界は解除できるが……」



「途中、羅刹女の眷属である

悪魔達が結界を破壊するために

仏塔で待ち構えておりましょう。

それを切り抜ければ我らの勝ちです」



文成公主が拳を

握りしめ決意を露にする。


結界の解除が獣頭金剛橛プルパ

回すだけで出来るなら、


かりに羅刹女の眷属として

他の72柱が出現しても

倒す必要はない。


各々は四方の仏塔を

目指せば良い事となる。



「ふっ、皮肉なものだ。

結界を壊したくても壊せない悪魔達と

結界を解きに鍵を持って行く我々が

仏塔で蜂合わせるのだからな」



「ウム……

いらぬ戦闘は避けたいが、

そうもいくまい。


しかし我らは6名だ。

それを四つにわけると、


単独で仏塔へ行く者が

二人も出てしまうが

極めてそれは危険だぞ?」



フェノメンの意見に同調するように

ドラクルも懸念を込めて呟く。



「大丈夫です。

妾たちも破魔の術を

心得ておりますゆえ、

仏塔の一つはお任せ下さい」



ティツムもまた気弱そうな

笑顔で気丈に振舞う。


そして話し合いの末、

人選を議論した結果————



東はイートニャン、フェノメノンの

性別不詳ペア。



西は八百、ドラクルの

魔人ペア。



南は悟空、ホムンクルスの

脳筋天才ペア。



北は文成公主、ティツムの

仙女ペアに決まる———




「東西南北、それぞれ

仏塔の結界が開かれれば

ワシには分かる。


四つの解除を確認したのち、

この宮殿の結界を最後に解く。

各々に御仏のご加護があらん事を!」



ポタラ宮に残る

ソンツェン・ガンポ王が

厳かに合掌し皆の無事を祈る。



「みんな、無事にまた

ここへ集合するのよ~('ω')ノ」



こうして仲間達が

それぞれコンビを組み

東西南北の道を歩んで行く。


進むべき道は別々でも

決意と覚悟の固さは、

お互いに負けはしないのであった。



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