水上都市
1450年。
メキシコ中央高原テスココ湖。
アステカ帝国の首都
——テノチティトラン——
それは石造りの
家々と神殿の数々、
都市の中を橋と水路が
交差するように入り組み、
人々と商品を載せた
カヌーが行き交っている。
そんな水上都市の有り様を、
階段状の壮麗なピラミッドが
街を見下ろす————
「なんか……
街中、水浸しじゃない?」
「この都市は湖の島の
上に造られましたからね」
イートニャンが
街中の混沌とした
雰囲気を感じ取るも
八百が都市の
成り立ちを付け加える。
「変わった格好だが、
あんたら旅人さんかい?
ここ数年、湖の水位が
変わって洪水が起こったんだ」
魚の入ったかごを
持った漁師風の男が
イートニャンらに
街の事情を説明してみせる。
「それだけじゃない、
干ばつもあってなぁ。
飢える人間も多いのさ」
「……王様が言うには、
これは神様の怒りだそうだ」
「じゃあ、また生贄が必要って事か」
通行人の何人かが世間話ついでに、
漁師とイートニャンらに話しかける。
「でも、その天変地異、
単なる生贄で済む
話じゃなさそうねぇ☆」
72柱が絡んで
いるかは分からない。
が、いつの時代も自然災害は、
つきものであると、
イートニャンが考える一方、
普段、悠然としたドラクルが
何かを感じ取ったかのように
神経質にソワソワしている。
「ん、どうしたの大魔王様?」
心配して話しかける八百に、
ドラクルは神妙な
顔つきで口を開く。
「魔力の波長を感じる。
これは余の秘伝書だ」
「じゃあ、この時代に
奴が居やがるのか!?」
推測が確信に変わるや、
ドラクルは血相を変え
コウモリ姿になって、
街中を飛び出す。
「あんもぉ!
ちょっと、待って☆」
勇み飛んで行く
ドラクルを見失わないよう、
一行は街中の雑踏を掻き分け
黄金のコウモリを追いかけて
走るのであった。