聖地ウルル
――B.C.1000――
乾ききった赤い大地に
枯れた色の草が僅かに
生い茂っている。
快晴の空の濃い青みの中、
果たして岩なのか山なのか
分かりかねる赤茶けた威容が
空高くそびえ立っていた。
八百はというと、
赤い山脈のような
巨岩を見上げている。
「ここが紀元前、千年ほど前の
オーストラリア中央部ですよ。
で、あっちにみえるのは聖地ウルル。
……エアーズロックと言った方が
分かりやすいかしら?」
「ふーん。
岩の形ってのは変わらないものね。
あたしも昔旅行で行った事があるわ☆」
イートニャンは、
ヴァカ博士だった頃の事を
思い出し岩を見上げている。
「今回は随分と遥か
太古にまで遡りましたね……」
「ただっ広い砂漠か。
こりゃ、俺様が元居た場所に似てるな」
ホムンクルスと悟空もまた
時代の雰囲気に馴染むように、
あるいは思い出に浸って
岩を見上げていた。
「お~い、そこの先祖~」
大声と共に突如意味不明な
言葉が耳に飛んでくる。
あまりの馬鹿声にイートニャンが、
うんざりした様子で振り向くと
岩陰から滝の様に流れる妖艶な
銀髪が一同の目を引く。
褐色の肌に白のボディペイントで
流線型の文様を施した少女が
笑顔で駆け寄って来るのであった。
「先祖って誰?
あたしゃ、お前のジーちゃんでも
バーちゃんでもないのよん☆」
年は十代前半か半ば位。
頭には羽根飾り、
首には貝殻の首飾り
胸部と腰部には動物の皮で
作った民族的衣装だが、
その装飾品のデザインと
独特の緩い着こなし方は、
どこか前衛芸術家のような
センスを感じさせる。
「ようやくユティの
チュクルパが体現した」
「ん?
なんの話ですか」
「いいから一緒に
ユティの村くる」
「おいwww
こっちの意思は無視かよ」
おかまいなしの
会話のドッジボールに
ツッコミを入れるものの、
少女は笑顔を浮かべるのみであった。
どうやら、ユティというのが
この少女の名前らしい事と、
イートニャンたちが彼女にとって
少なくとも歓迎すべき客人
である事だけは理解する。
「種の手掛かりもないんだし。
情報収集だと思ってついて行ったら?」
八百は半ばあきらめた様に数奇な
出会いの流れに沿って行くつもりか
急かすユティの指し示す方向へと
歩き始めていた。
すでにこんな展開は
慣れっこなのである。
「そうは言っても、
会話が通じないじゃーん☆」
イートニャンになって以来、
不条理に馴れ合うのは
ごめんであった。