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イートニャン  作者: 坂本龍馬♀
―ドイツ―
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賢者の石


「そこの

ナイフとフォークを

もった不審人物とまれ!」



マルクト広場に戻り、

しばらくすると怪しまれる。

しかも今度は市場を見回っている

衛士らしい武装をした男であった。



「あの爆発の前後で

不審者がいないかと思っていたら、

お前がファウストを殺した悪魔だな?

教会の祓い師に突き出してやる!」



衛士らしい男の言葉から、

ここハイデルベルクの市参事会も

あの爆発事件を調べているらしい。



「ここは関所かっつーの☆」



いきなりの剣幕に逆切れ気味に

イートニャンは反応してしまう。



「ちょっと博士……」



八百が静かに諫めるように

イートニャンに耳打ちする。


先ほど八百が言った通りに、

やって見せろという事である。



「ハイハイ、あのですねぇ、

あたし達は旅芸人でしてねぇ。

黒猫のバケモノに変装して人々を

笑顔にするのが生業なの☆」



愛想のいい芸人を装ったものの、

どこか挙動不審のぎこちない

イートニャンの言動からか衛士は

苛立たし気に顔色を厳しくした。



「だから、何だと言うんだね!」


「だから、旅芸人だっつのw」



らちがあかず

イートニャンを中心に一同が、

その場を急いで離れようとした、

その瞬間。


酔っ払いの男が

横から現れ、喚き散らす。



「お、オイラは、見たんだ!

ヨハンの旦那の工房近くで爆発の中、

燃え盛る馬と仮面の騎士が、

どこかへ消えていくのを。

きっとありゃ、バケモンに違いねぇ!」



突然の乱入にも関わらず衛士は

呆れた様にため息をつくと、

酔っ払いに肩を貸す。



「……おい、アンタ。

真昼間から飲みすぎだぞ?

家まで送ってやるから帰んな」



なおも、抗弁する酔っ払いを

衛士は宥めつつ表通りへと

二人はもつれながら去って行った。



「あぶないわね、あやうく

犯人にされるところでしたよ博士」



「けっ、アホくさ。

あの酔っ払いに感謝するんだなw

目撃情報もわかった事だし」



八百と悟空のそばでホムンクルスが

ポテチをカジり何かを得た様に頷く。



「やはり召喚した悪魔に博士は、

殺されたとみて良いでしょうねぇ。


それも恐らく二匹の共犯で、

一方は博士を直接爆殺した悪魔。


もう一方は時空を

飛び越える能力者ですよ」



「なんで能力まで

分かっちゃうのw」



イートニャンが

素朴な疑問をぶつける。



「……さきほどの悪魔を

二体見たという証言もありますが、

あれだけの人がいたにも関わらず、

目撃情報がなさすぎるのは二体が

瞬時に消えたから、と僕は考えますねぇ」



「ほ~う?

爆炎を操る悪魔は、

まぁ爆破事故だから

容易に推測できるのはともかく。


なーんで、

もう一匹が時空を超える

能力だってわかるのよッw


単に二匹とも姿を消した

だけかもしれないじゃん?」



「僕の悪魔学の知識データベースに爆炎を操りかつ、

時空を移動できる二つの能力を備えた

悪魔は思い当たりません。

姿を消すだけなら

デモンイーターである、

あなたのセンサーに

引っ掛かってしまいますよ」



「そりゃそうだwww」



アホ丸出しで後頭部を

掻きむしるイートニャンを尻目に

今度は八百が試すように口を開く。



「じゃ、爆発が起こったあと。

工房のどこかに隠れて

押し寄せた野次馬に変装して

逃げた可能性はどうかしら?


人間に変装してるせいで

イートニャンのセンサーに

引っ掛からなかった事があったのよ」



真剣な八百の疑問にも

ホムンクルスは

口以外を動かさずに応える。



「あの凄まじい爆発で

黒焦げになってしまいましたから

工房に隠れる場所なんてありませんよ。


よしんば焼け焦げた

瓦礫に隠れたとして……


あの衆目の中、焼け跡から

人間を装って出てくるなんて、

逆に目立って不審人物として

マークされてしまいますねぇ」



「ふーん。

たしかに、そうかも

しれないわ……」



「ま、あたしなんか、

この姿ってだけで、

どの時代でも不審者

扱いされてるしね」



悟空は元より、こうした

頭を使う役割は八百と

イートニャンの

二人に任せるつもりでいた。


その二人が納得するのなら

自分も納得してやろうと

ホムンクルスの言葉に

静かに短くうなずいていた。



「で、どうするの。

時空の彼方に消えちゃったら

追いついて倒す事なんて、

できっこないわ」



今更ながらに

イートニャンは

地団太を踏む。



「あなた方も、

時空を超えてこの時代に

来た訳ですよねぇ。

だったら、また時間を

遡ればいいだけですよ」



その反応もすでに

予期していたかのように、

ホムンクルスが冷静に反論する。



「ホム太郎ってば

カブレラスト―ンがない以上、

タイムスリップの連発は無理なの☆」



ホムンクルスは

ポテチを食べるのを止め、

意味深に口元だけで

笑って見せる。



「それについてなんですが、

一度博士の所に戻りませんか?」



小さな妖精の提案で、

一同は、ファウストの

工房跡に戻って来ていた。


悟空が部屋の隅の瓦礫をどけると

地下への階段が姿を現す。



「ほ~う、こいつは……」



「地下室ですよ。

実験に使う機材や

博士の発明品をしまっておく

倉庫代わりになっていまして

『アレ』が無事なら、

まだ打つ手はあるはずです」



階段を下りると、

ごちゃごちゃと

怪しげな機材な薬品、


妙なガラクタが

コレクションのように

棚に所狭しと並んでいる。


中には爆発で棚から落ちて

割れてしまっているものもあるが、

多くは地下室にあったおかげで

無事に原形を保っている。


ホムンクルスの指示に従い

悟空がガラクタの海を掻き分けると、

やがて一つの小さな赤い石が

一同の目にとまる。



「こいつぁ……

龍石カブレラストーンにそっくりだな」



悟空は赤い石を

指でいじくりながら、

一同にかざしてみせる。


怪しく光る赤い石を

イートニャンが

食い入るように魅入る。



「これは博士の発明品、

賢者の石です。

ヴァカ博士と会った時に、

おそらく真似たのでしょう。


そのカブレラストーンほどでなくとも

同じ場所のたいして時間の

離れていない時代であれば……」



期待半分、

不安も半分、


といった感じに

ホムンクルスは

言葉を詰まらせる。



「噂には聞いた事があるけど

私も初めて見るわ……」



八百も賢者の石に興味を引かれ

赤い石を悟空から受け取り

手に取って観察する。


確かに色や形からして、

賢者の石なる代物は

カブレラストーンに酷似している。


しかし、カブレラストーンに比べ

賢者の石は小さく、その不思議な

輝きも100年の時を経て

生成されるカブレラストーンに比べ、

やはり不完全で劣っているように思えた。


もっとも、本来は

人の手によって作り出す事など

到底不可能な代物を

オリジナルに大きく劣るとはいえ、


短い期間で作り出してしまうとは、

ヴァカ博士が憧れるだけあって

ヨハン・ファウストとは、

人類史上稀にみる鬼才を持った

恐るべき科学者らしい。


あとはこの石が秘める能力の

謎を解き明かすだけである。



「どうでしょう、

今から数日前でよいので、

賢者の石ならタイムマシンを

動かす動力になりませんかねぇ……」



八百とイートニャンが力強く頷く。

犯人の手掛かりとその手口は調べた。


今度は反撃の一歩を、

こちらから踏み出す番なのだ。




賢者の石をタイムマシンの

台座である天球儀にハメ込み、

イートニャンは、せわしなく

指でコンソールを叩きだしている。



「う~ん、これが

もし龍石と同じような

パワーを秘めているのであれば、

ホム太郎の言う通り、

4、5日前まえの同じ場所になら

ギリギリさかのぼれそうかもねぇ……」



ホムンクルスが胸を

なで下ろすように、

ため息を吐く。



「そうなると、

別の時間軸のヴァカ博士と、

ファウスト博士が出会うのを

阻止する事は無理でも、

そこから生まれた72柱が

ファウスト博士を殺害するのを

止める事はできそうね……」



八百が独り言の様につぶやく。



「んじゃ、さっそく

試してみようかしら☆」



意気揚々とイートニャンは

タイムマシンのスイッチを押す。


カブレラストーンを使った時と

同じ光が天球儀から放たれ、

その衝撃がマシンを揺るがせる。


やがて振動が収まり、

イートニャンはタイムマシンの

ユニットディスプレイを覗き込む。



「どう、博士。

成功した?」



珍しく無言でマシンの装置を

あれこれ凝視している

イートニャンを見て

八百が不安そうに声を掛ける。



「遡行できた……!

やっぱし、賢者の石を造った

ファウスト博士って、ちょー凄い(/ω\)」



ようやく歓喜の声を

上げるイートニャン。


八百やその他の面々が

ディスプレイを覗きこむ。



大まかな時間軸は

1540年のドイツ、

ハイデルベルク近郊そのままに


確かに日時だけ5日前に

遡行しているのであった。




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