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イートニャン  作者: 坂本龍馬♀
―ドイツ―
47/273

ファウスト


赤レンガの建物が

居並ぶ広場。


ひと際立派な大聖堂。


辺りを見渡せば

中世ヨーロッパの街並みが

目の前に広がっていた。



時に西暦1540年ドイツ。

ハイデルベルク -マルクト広場-



「くぅぅぅぅ……

やけに冷えやがるな」



寒がる悟空を尻目に

イートニャンは

周囲の情景を見渡す。



「どうかしたの博士?

なーんかニコニコしてるじゃないの」



イートニャンとしては

何やらこの時代のこの場所に

憧れと思い入れがあるようだった。



「もしかしたら……

いや、もしかしなくても、

あたしの憧れに会えるかも」



「博士の尊敬する人? 誰それ!?」



「危ねぇ!!!」



最後まで言い終わらないうちに

大きな爆発音と悟空の叫ぶ声が

イートニャンの言葉を遮る。



「ちょっと!

いきなり、どんだけ!?」



爆発で飛び散った家屋の残骸が

すんでのところでイートニャンに

突き刺さるところであった。


黒煙は広場からは逸れた裏路地の

家屋が密集した区域から起こり、

炎が上がっている。



「おいおい、なんだ!?」


「ばっ、爆発だ……」


「ヨハンの旦那んトコからだ!」



広場に集まっていた人々が、

火災への恐怖心と

野次馬じみた好奇心に駆られ

裏路地へと集まって行く。



「いそぎましょ。

悪魔シードが現れたのかも」



「あんもぉ☆

ロマンを感じる暇も

無いんだから!」



早くも事件の予感に

イートニャンらも、

人の流れに身を任せる。



「ヒデェもんだ。

ほとんど黒焦げで

何がどうなってんだか……」



「俺は、いつか、

こうなると思ってたぜ」



「けっ、ペテン師め。

ついに罰が当たったんだ!」



小さな工房と思われる家屋が

無残にも半分吹き飛び

爆発の中心部は高温で

何もかもが黒く炭化していた。


幸いにして炎は、

すぐに収まり延焼えんしょうの恐れは

ないようであった。


集まった野次馬たちの多くは

既に誰が何をしてこのような

惨状になったのか分かっている風で


中にはあからさまな嘲笑と

蔑みを浮かべている者もいる。



「どゆこと?

もしかして……

いや、もしかしなくても、

この爆発した家って……!」

 


イートニャンの脳裏に

ある推測が浮かぶ。



野次馬たちが興味本位で

珍奇な格好のイートニャン達に

目をくれる。



「おい、なんかナイフとフォークを持ってるぞ!」


「猫と猿が歩いてるんですけどwww」


「もしかして博士の知り合いか!?」



野次馬の中の若い行商人風の男が

半壊した工房を指さしてごくうに説明する。



「誰の事でぇ?」



「ヨハン・ファウスト博士さ。

錬金術師として、ここいらじゃ有名だよ。

いつも変な実験ばかりしてる変人だけど」



すると、今度は気難しい

職人風の男が反論するように

口をはさむ。



「変人で済むものかい。

ある司祭様は、この胡散臭い

邪教徒は悪魔の力を借りて

いるなんて言っていたが、

結局こんな事になっちまったんだ。

まさに、そのとおりだったろ……!」



職人風の男の言葉に、



「そうだそうだ」


「邪教徒に神罰が下った」



と口々に同意する野次馬が上がり

気が付けば、同情や悲しみよりも

ファウスト博士に然るべき

罰が下ったのだという嘲りの感情が、

その場を支配していた。



「そんな……!?

博士に憧れたのが

キッカケであたしゃ

科学を志したのに☆」



もはや、散々な言われようの

ファウスト博士に成り代わって

怒る気力もない。


野次馬が去ってしばらく虚しい

静寂が半ば黒焦げになった

廃墟を見つめながら


イートニャンは亡き骸さえも

ロクに分からなくなった

ファウストに思いを馳せていた。



「憧れの存在って……」



沈黙に気まずくなった八百が

哀愁を帯びたイートニャンに

問いかける。



「この流れ的にファウスト博士に

決まってんでしょーに。

逆に誰よ!?」



「いや、ファウスト博士って

厳密には科学者って訳じゃ……」



「いいですかーっ八百ちゃん。

悪魔に魂を売ってでも、

この世の真理を極めんとした

ファウスト博士のストイックな

姿こそが科学者をしてるのよ。


そんな博士の伝記を読んで、

このあたくしも清く正しい

科学者を志したわけ☆」



堂々と演説じみた様子で

己の熱い想いを語る

イートニャンであったが


八百の目線は、

じっとりと生温かった。



「その結果、ヴァカ博士は、

どうなりましたか?」



「あんもぉ☆」



満面の笑みで八百が矛盾を指し、

一人意味不明の身もだえをする

イートニャンであった。



「もしかしてファウストってのは

俺様を造った金角銀角みたいな

奴って事か?」



それまで、小難しい話題は

苦手だとばかりに沈黙を

保っていた悟空が口を開く。



「ま、もしかしなくても、

そうなるわね☆」



ファウストよりも過去に

生まれた悟空の素朴な疑問に

事件の全ての発端である

イートニャンは流石に

バツの悪い気持ちになる。



「でもね、ファウスト博士は

この世の真理を追究したい

だけであって決して他人を

害するような邪悪なお人じゃ……」



焼け焦げた工房跡を眺めて

イートニャンは口を濁す。


今となっては

ファウスト博士が何をし、


こんな悲惨な最期に

なってしまったのか?

死人に口無しである。


軽くため息を吐き、悟空が

イートニャンの背中を叩く。



「死んじまったモンはしゃあねぇ。

早く72柱とやらを探した方が

いいんじゃねぇか?」



不器用ながらも悟空に諭され

イートニャンが名残惜しくも

ファウストの工房跡を

立ち去ろうとしたその時、



「待って、音が聞こえる!」



八百が何かを感じ取り

二人を手で制する。



耳をすませばカリカリ何かを

食べるような音であったが、

イートニャンにもソレが聞き取れた。



「オイ、こっちだ。

がれきの下に誰かいるぜ!」



悟空もまた感覚の鋭さから

声のした個所に素早く移動し

焼け焦げた瓦礫を持ち上げる。



「これは……」



悟空が持ち上げた瓦礫の下に

人の姿はなく代わりに

ガラスの瓶があの爆発の中、

割れずに寂しく残されていた。



「フラスコ?」



よくよく見ると、その瓶の中には

ポテトチップらしきものをカジる

小さな小人が入っていた。


イートニャンらが瓶のフタを開け

中の小人の存在に驚くと同時、


その小人はポテチをカジるのを止め

小さなため息を吐き出す。



「ふぅ、助かりましたよ。

ありがとうございます」



「だーれチミは?」



イートニャンが瓶を拾い上げ、

しげしげと眺めると、


小人は白い軽装で身をまとい、

クロッシェのような

白の円形帽子からは銀色の髪が

キラキラと輝いている。



「ホムンクルスと、

お呼び下さい……」



瓶の小人は恭しく頭を下げ、

自らの名を名乗った。



「ホムンクルス?

もしや、ファウスト博士が

作った妖精じゃないかしら」



今度は八百が察するように

瓶に顔を近づける。



「……そういうあなた方は、

時空を超えて博士を訪ねてこられた、

ご客人ではありませんか?」



「そ☆」



やや警戒気味に

イートニャンが返事をかえす。



「博士が僕に教えてくれたのですよ。

今日、猫と猿が人間の少女と、

もしかして来るかも、と」



イートニャンらの存在を

予期していたケースが再び起こる。


それも今日やって来る、

という事まで正確に予知されて

いるのは初めての事であった。



「しかし、博士は

殺されてしまいました」



「事故死じゃないの!?」



「いつもの実験をしている

様子はありませんでしたねぇ。


誰かに会う予定で、

そのための準備をするつもりだと

僕に言っていましたから……

その最中に爆殺されたのですよ」



「私たちに会う前に……?」



八百の質問に

ホムンクルスは

沈痛そうにうなずく。



「ふーん。

とりあえず、あんな事や、

そんな事、こんな事を説明しとく?」



イートニャンが

八百に耳打ちする。


この話の流れ的に、

この時代の協力すべき相手は、

この妖精以外にないようである。



八百を中心に敵の存在から

デモンイーターのイートニャン。


そして、これまでの自分たちの

数奇な旅路をホムンクルスに

簡単に説明する。


八百の話が終わるころには

ホムンクルスはポテチを食べ終え、


自らの好奇心を

満たしたようであった。



「なるほど。

博士が妙に張り切っていたのが、

ようやく納得いきました」



「……で、ホム太郎に改めて

聞きたいんだけど何があったの。

ファウスト博士は誰に殺されたん?」



イートニャンは早くも

馴れ馴れしくホムンクルスに、

あだ名をつけ事件の真相に迫る。



「僕はポテチと一緒に、

この瓶の中に入れられ

犯人の姿を見てないのですよ。


おかげで爆発から身を

守れたのですが、


気が付いた時には工房が

炎に飲まれてましてねぇ……」



「ふぅん?

ポテチをこの時代で作るとは、

さすがファウスト博士。

あたしと同じ美食家の

一面もあったのね☆」



その様子に嘘らしいものは

含まれていないと感じ、

イートニャンはポテチにも

関心をもつ。


が、それまで沈黙を

保っていた悟空が

不信感を露に口を開く。



「お前はどういう経緯で、

ファウストとかいう

奴に造られたんだ。


俺様からすりゃ、お前が

一番怪しく見えるぜ?」



あからさまな不信の目で

見られたにもかかわらず

ホムンクルスは短く目をつむり、


考え込むように一呼吸置くと

静かに悟空に語り掛けた。



「もっともな疑問ですねぇ。

数日前に、博士に悪魔を

召喚できる魔法陣を教えた

人物がいるそうなんですよ。


かく言う僕も、その人物の

知恵を借りて博士が

作り出した存在なのです」



「なに……!?」


「じゃあ、そいつが犯人じゃんw」




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