incident3:ミシガン湖殺人事件
嫌な予感とは、どうして、
こうも当たるものか————
嗅覚が異常に発達した
イートニャンは、
すでに部屋の外から
腐臭をかぎつけ何が
あったかを悟る。
部屋に入り、目に映ったのは
中年の小太りの男が仰向けに
倒れている光景であった。
「やっぱりこれか(*_*)」
頭は何かでかち割られ、
部屋の床を赤く染め上げている。
「この屋敷で
先ほど殺人がおきた。
犯人は窓をやぶり外に
逃げたようなのだが、
この時間にあの森を
降りれるとは到底思えない。
そんな時、きみたち二人が、
ちょうどやってきたのだ……」
八百が口元を手で抑え
顔をしかめながら死体に目をやる。
「この男も君たち同様、
旅行者でね、名前はロベールという」
「ふーん、さっき
カウボーイが言ってた
あんな事ってやつね。
で、誰なのよこんな事や、
そんな事してるのは!?」
ロベールの死体に寄り、
まじまじと見つめる
イートニャンをアランは
目の端で一瞥し、
何か深く考えこむように唸ると、
今度は意味深に視線を八百に移す。
「犯人は必ず現場に戻るものだ」
「私たちはヤっていません」
八百が語気を強めて反論する。
「いや、失礼。
君らがヤったのなら、
あんな疑わしい登場の
仕方はしないだろうな」
イートニャンは、
しばらく殺害現場を
見回していたものの
頭を抱えてしまっている。
「……何か気付いたのかね?」
「いや、何かっつーか、
とっと逃げなさいよ。
それともこの島には町や
警察とかってないわけ!?」
納得いかないように疑問を
口にするイートニャンに、
アランの代わりに様子を見に来た
屋敷の主人エローズが
申し訳なさそうに口を開く。
「この島はミシガン湖の
北方に浮かぶ孤島ですからな。
屋敷以外に町はおろか
集落さえないのですじゃ。
当然、警察に通報するとなると
最寄りの街に遠出する
必要がありますので……
ま、いずれにせよ、夜が明けて明日、
連絡船が来るのを待たねばのぉ」
「それなら、電報で
連絡するとかどうです?」
八百が疑問を投げかけるも、
エローズが首を横に振り
痛ましく言葉を継ぐ。
「何者かに線を切断
されてしまいましてなぁ。
こちらからSOSを発信する
事さえ出来ない有り様。
つまり、一泊する
しかないのですじゃ。
もちろん宿泊代は
タダではないがね?
いーっひひひひ」
「バカバカしいwww」
お決まりの展開に
爆笑するイートニャン。
しかし現実には、
すぐに救助は呼べず
時間も夜を過ぎ、
危険な森をくだるには、
どうみても難しい
少女や、老夫婦もいる。
どこに潜んでいるかもわからない
謎の殺人鬼におびえながら、
せめて朝を待って、明るいうちに
全員で山林を降りるしかない。
そこで、明日来航する
予定の連絡船を島の小さな
波止場で待つほかないのであった。