ホールディングス
「わざわざ
プロデューサーさん自ら
送迎とは痛み入るわね。
私の戸籍まで調べて連絡するなんてさぁ」
「ハハハ、弊社としましても
有望なプレイヤー様とは、是非
親密な関係を築きたいと考えております」
陽気な営業スマイルで笑う零に、
ヴァカも油断のならない相手だと
眼鏡のブリッジを中指でおさえる。
『サモンシーカー』を
プロデュースした人物が徳川零なら、
徳川ホールディングスとは、
その零が所属する企業である。
古くは徳川家康を祖とする徳川家は、今や
財閥系企業として様々な事業展開をしていた。
ざっと主な事業を上げるだけでも、
通信教育、スーパー経営、通信事業、
金融ファイナンスなどがある。
その中でも零が
受け持つゲーム事業部こそは、
近年徳川ホールディングスで最も
利益率を伸ばしている部門であった。
「ほら、あなたと何度も
激戦を繰り広げたVIPも、
ちゃんと来てくれたようですよ」
零は壁に掛けられたプレイヤーの
リストを指さして見せる。
今回出場する中にヴァカの名前と共に、
ブラフマンの文字が大きく印字されていた。
「それは楽しみねぇ」
ヴァカはニヤリと笑うと、
わざわざ日本まで足を運んだ
甲斐があったとウズウズしはじめる。
「今日のブラフマンとの勝敗に関わらず、
もしスノウさんが宜しければ、わが社の
宣伝役になってもらえませんか?
もちろん、報酬は高く弾みます」
零が軽く、しかし真剣な面持ちで、
ヴァカに提案を持ち掛ける。
ゲームで名を挙げた優秀なプレイヤーは、
徳川ホールディングスの
宣伝塔として雇われるという。
いわゆる企業専属のインフルエンサーであり、
零としては高戦績をもつヴァカを
その手の宣伝塔として利用したい思いもあって
この大会に呼び込んだのであった。
「ま、かんがえとくわ」
「そうですか、いつでも連絡を下さい。
あなたほどの人材なら歓迎いたしますよ」
零は朗らかに笑い、
大会の打ち合わせのためだと言って、
その場を立ち去る。
本来、研究者として
静かな生活を望むヴァカとしては、
人ごみも極力避けたいはずであったが、
ブラフマンへの
リベンジのために
ここまで来てしまった。
そして、ヒットゲームを創った零もまた、
ブラフマンを操る誰かとは別種の天才。
天才を自覚する自分が容易く
他人に翻弄されているようで、
ヴァカとしては少し
悔しい気もするのであった。




