エピローグ
「やぁ、久しぶりだねぇ。
元気にしてたかい?」
男勝りの口調で、
ニィと笑って見せる口元の笑みは、
ヴァカにとってこの人物と、はるか昔、
どこかで会ったような、会わなかったような
そんな不思議な空気をかもしだす。
「ち、チミは……」
「ち、チミは、じゃないでしょw」
とっさに思い出したある名前を告げ、
目の前の人物が静かにうなずく。
ヴァカが科学の天才なら、
彼女は医学の天才と言える存在であった。
特に獣医としては、ずば抜けて有能であり
ヴァカが創り出した人工生物の容体を見て
適切に治療を施せる世界で唯一の存在として、
研究面では切っても切れない人物である。
「前に話してくれていたスーパーフード。
その食材となる生き物の様子を見せてくれよ。
まぁ、定期健診ってやつだ」
「あぁ……
その事なんだけどね……」
「ええっ!?
跡形もなく破棄しちゃったの?
サンプルも全部?」
今となっては後ろめたい
気持ちでヴァカが頷く。
スーパーフードの研究を
彼女は楽しみにしていたのか、
すっぱりやめてしまったヴァカの選択に
驚きと落胆を隠せずにいる。
「ヴァイタルなアミンがどうのって、
あんなに熱心に息巻いてたのに何で?」
「色々あってね。
話すと、おもくそ長くなるの」
「じゃあ、さわりだけでも、よろしく」
なにやら面白そうな
話の気配をかぎつけたのか、
彼女が身を乗り出して話をせがむ。
ヴァカはスーパーフードの
研究を進める過程で生じてしまった、
72の悪魔の存在を、かいつまんで話した。
「————ふぅん、納得いったよ」
「なにが?」
「以前会った時よりもなんか
人情味が増したっていうのかな。
君は自分の研究の事が第一で僕を含め、
他人の事なんて知った風じゃなかったじゃん?」
『酷い言われようね!』
とヴァカは反発しようとして
言葉を引っ込める。
知的好奇心のみを追い求め、人との関わりを断ち、
シードを生み出し災厄を撒き散らしてしまった。
かつてこのラボで自分の
助手として働いてくれていた、
少女の面影がヴァカの脳裏にふと過る。
「僕は僕で流浪の闇医者だからね。
腕を見込まれて色んな場所に赴き患者を診てきた。
それなりに旅をしてきたつもりさ。
だから旅を重ねた人間の面構えってやつが分かる。
君は人間を知るようになったのさ……」
ラボに差し込む日差しを
眩しく仰ぎ見ながらヴァカは、
今更ながら鮮明に自らの
出生を思い出していた。
かつて天空の文明に
双子の妹がいたこと。
その文明がドラクルと
飛龍の戦いで滅んでからは、
コールドスリープの影響か
不思議と記憶が飛び飛びで
現代に至る事を……
「きっと、素晴らしい
仲間達に出会えたんだろうね。
筋金入りの研究バカだった君を
変えてしまえるほどに」
皮肉交じりに、しかし、
慈しむような笑みを浮かべて彼女が
ヴァカの瞳の奥を見つめる。
「……君の冒険とやらを
じっくり聞かせてよ」
その言葉にヴァカが
追憶に想いを馳せる。
「そうねぇ。
あれはさっきアナタが
やってきた時みたく、穏やかな日に
インターホンが鳴った時の事だったわ————」
【イートニャン完】




