World's Mine (4)
最後の戦いを見届けた
ドラクル、フェノメノン。
ゴエティアの発動によって、
イートニャンの姿から
人間に戻ったヴァカ博士。
断崖の絶壁で三人は立ちすくみ、
夕暮れ時になった水平線を見つめていた。
ヴァカの手の中には、
今や八百の形見となった
龍石が握りしめられている。
「……レディに、
ルルイエ異本の精霊を
呼び出す事はできん。
このネクロノミコンの超魔力、
それを使いこなせる余でなければな」
口元を歪ませながら
ドラクルは夕暮れを眺めている。
助太刀に入らなかったのは、
ヴェパールの計画が不発に終わる事を
知っていたからであった————
「これからどうするの。
お二人さんは」
「元の時代に帰るとする。
本来は往復分で龍石を一つ消費するが、
私とドラクル卿で片道二回分。
つまり、龍石は一つで足りるな」
フェノメノンの言葉にドラクルは
渋い顔になり考え込むように、
下顎を指で撫でつけ唸る。
「ワラキアが懐かしい気持ちもある……
が、余はこの時代に残るとしよう。
このまま文明が進歩すればやがて、
ファルザードに匹敵する
科学力を持ちうるであろう。
それを邪な目的で使う者が現れた時、
止められる者は余の他におるまい」
ネクロノミコンの力によって
ファルザードを滅亡させてしまった
自責の念は、未だドラクルの中に燻っていた。
三人はラボに戻り、
タイムマシンに乗った
フェノメノンを見送る。
「では、さらばだ。
私は十八世紀のウィーンに戻り、
この乗り物を復元できぬよう
破壊するとしよう。
あとは分かっているな……」
自らの発明品で
散々な目に遭ったヴァカが
やれやれと肩をすくめると、
フェノメノンはニカブ越しに
少しだけ優し気に笑ってみせる。
「最後に教えて。
あんたの正体を」
「安心しろ、
ただの音楽家だ」
今更それを話したとして、
世界がどうなるものでもない
と判断し、フェノメノンは
時空の彼方へと消えるのであった。
「素っ気のない奴よ」
結局フェノメノンという存在は
大魔王ドラクルにとっても
最後まで謎であり続け、どこか
口惜しい気もするのであろう。
「さて、余も行くとしよう。
ここで生き抜くと決めた以上は、
この星のために陰ながら戦い抜くつもりだ」
共に冒険し道半ばで
倒れた悟空やホムンクルス。
彼らがどこかで見ている気がする。
そんな僅かばかりの切なさを滲ませ、
ドラクルは金色のコウモリになって
夕焼けの空へと飛び立つ。
「バイバイ、ドラ公……」




