狼煙 -前-
一方、ニゲルとアルブスの二機が
エンジンを最大出力で吹かせ、
ファルザード上空まで帰還すると、
眼下に広がるその甲板は激戦で
損傷が激しい箇所があるものの、
飛龍の姿は肉眼でもレーダーでも
確認できなかった。
代わりに黄金色の異形の機神が佇んでいる。
そして、機神に立ちはだかるフェノメノン、
血まみれに横たわる狐の姿————
「兄さん!?」
「やれやれ……
これからは協力し合えると
思っていたのに……」
メサイアの愛機である
アルゲントゥムの残骸を見て、
普段冷静なアリスが我を忘れて叫ぶと
ハレルヤは、メサイアが既に
この世にいない事を悟る。
「「アスモデウスと戦い
生き残るとは悪運の強い奴等だ」」
フェノメノンを始末しようとしていた
メビウスが二機の機神を見て突進する。
「その機神にはメビウスに寄生した
72柱の悪魔ヴァサゴが乗っている!」
ファルザードの甲板に着陸する二機に、
フェノメノンが異形の機神の正体を告げる。
「……だってさ。
あんた気づいてた!?」
白と黒の機神が武器を構え、
突進してくる異形の機神に
そなえてみせる。
「気づくわけないじゃーん。
どーせ敵に操られてるんじゃないの~?」
イートニャンのニゲル、
ハレルヤのアルブスが左右に回避し、
逆に金のアウルムを挟み撃ちにすると
アウルムは難なく両腕で防いでみせる。
「「メサイアの後を追わせてやる」」
機神と悪魔の力を無駄なく合わせ、
機体越しに雷撃を込めた拳で、
アウルムがアルブスを殴りつける。
「ハレルヤ博士!」
アリスの呼びかけに応じるも、
白の機神は動けそうもない。
アルブスを一瞬で戦闘不能に
追い込んだメビウスが、
背中の長剣をにぎる。
「アリスちゃん!
サポートは頼んだよーっ!」
「了解!」
ニゲル機もナイフとフォークを召喚し
アウルムの剣に打ち合ってみせるものの、
リーチの差で徐々に押され始める。
「「とどめだ!」」
黄金の長剣を振りかざした直後、
大口径のビームがアウルムの装甲を焦がすと
頭部に貼り付いたヴァサゴの
悪魔の顔が驚愕と恐怖に歪む。
これほどの威力の魔力を込めた
攻撃ができる存在を、ヴァサゴも
メビウスも一人しか知らない————
「残念だったな。
貴様にもう勝ち目はない」
空を浮遊するドラクルが
アウルムをにらみつける。
メフィストによって
奪われていた書を取り戻し、
ついに完全体として無限の
魔力を取り戻していた。
「えい☆」
ドラクルが発射した禁術
『魔断』をギリギリかわした
アウルムのスキをつき、
イートニャンのナイフとフォークが、
アウルムの胴体を貫く。
「「ぐぉ!! お、おのれぇ……」」
ドラクルの禁術に気を取られ、
機体もろとも致命傷を負ったメビウスが、
最後の力を振り絞り、体に突き刺さった
ナイフとフォークを引きはがすと、
大きくブースターを吹かし、
はるか上空へと飛躍する。
もともと宇宙を越えて
やって来た天人が造った兵器である。
機神そのものには大気圏を突破し
宇宙空間で活動する能力も
当然備わっている。
「どこいくのーーッ」
最後になって正体を現した
ヴァサゴを逃がしてしまっては、
ゴエティアのリストは完成しない。
ニゲルと一体化したイートニャンも
バーニアをフル稼働し、死に物狂いで
大気圏を離脱しつつあるアウルムへ猛追する。
二体の機神はすぐに
空中都市にいる皆の視界から消え失せ、
しばらくして最後の交戦の煌きが
銀河のように宇宙から瞬いた。
ひときわ大きな光が、
空の空間を引き裂くように輝き、
爆発の余波が空中都市に衝撃波をもたらす。
「————っ、みんな大丈夫!?」
アルブスのシステムを
復旧させたハレルヤが、
機神を盾代わりに皆を庇う。
「どうなったのだ?」
「……ヴァサゴの反応が消えたわ」
フェノメノンが虚空を見上げると、
医務室から駆けつけて戻った八百が
ゴエティアを確認し痛ましく呟く。
「ニゲルの姿が見えないね。
アウルムの爆発に巻き込まれたのかしら」
ハレルヤが空を凝視する。
二機の機神の融合炉が激しい戦闘の末、
お互いに暴発したものだろうと考える。
「相討ちか……」
ドラクルが紅蓮の目を閉じると
すでに混沌とした戦乱は去り、
周囲は静寂に包まれていた。
「お、終わったんだよな!?」
「飛龍も悪魔もいなくなったというのか……」
ファルザードの兵士たちは、
まだ自分たちが生き残った事に
信じられない様子でいた————




