狼煙 -皆-
ファルザード排気ダクト————
フェノメノンと狐もまた、
侵入してきた飛龍を倒し終わり
向かい合っていた。
狐のその手には
フェノメノンと同じ
楽譜が握られている。
「……これを見つけたのは
戦にいた時の事だ。
メフィストが使いこなせるのは
私だけだと教えてくれてな。
そこには荒廃した来世の
自分の記憶が記されていた。
だが、そなたが妨害する事で
人間だけの世界になった場合、
星の寿命は、さらに縮まると
私は結論づけた」
世界の行く末さえも
記された膨大な記録、
『アカシックレコード』
これもまた天人が他の星から
ネクロノミコンと共に持ちこんだ
ロストテクノロジーのひとつ。
どうした訳か二人が
出会った事により効果が
相殺されたらしい。
「邪魔者は始末せねば、
この力を取り戻せないようだ」
二人が得物を構えた直後、
大きな振動が立て続けに二回————
「!?」
狐は今の爆発で何かを察し、
ダクト内の闇へと紛れる。
フェノメノンの
聴覚をもってしても
無音で動く忍びの位置を
とらえられずにいた。
「私は暗殺者。
いつでもやれる」
狐の声が闇に木霊する。
「……無駄だ。
お前の忍び足をもってしても、
この音秘術からは逃れられん」
笛ならば相手が
どこにいようと関係ない。
狐が物影に隠れているとみた
フェノメノンが、音の重力波である
『グラ―ヴェ』で攻撃を仕掛ける。
が、狐が姿を現す様子はなく、
それどころか僅かな足音さえ
完全に消えていた。
いつでもやれるという言葉が
不意にフェノメノンの脳裏によぎる。
「しまった……」
そこには既に狐の気配はなく、
静寂のみがあった。




