狼煙 -闘-
「ここからは、
アユタヤ武術会の
続きといこうじゃねぇか」
壊れた弐式を放り投げ、
拳を構える悟空に対し
メフィストも折れた剣を捨て、
手刀で悟空を迎え撃つ。
すると、悟空がメフィストを
囲むように分身しはじめる。
「うけろ、これが
全方位・百歩神拳だ!」
時空移動が封じられた
メフィストにとって体術では
悟空のほうがはるかに上回り、
前後左右から放たれた
神速の衝撃波によって鎧は砕け、
顔の上半分を覆っていた兜が
弾きとばされる。
「あれは……
僕じゃないですか!?」
メフィストの
露になった顔を見て、
ホムンクルスが固まる。
「その通りだ。
前にも仮面を砕いた時、一瞬だが
俺様は奴の顔を見た事がある」
「なるほど、
だからあの時……」
昨日の夕食の席で悟空の
様子がおかしかった事を
ホムンクルスが思い出す。
「今まで他の奴らを
混乱させちゃまずいと思い、
黙っていたがな」
「クク、そんな事は、
これから死ぬ君には関係ない」
明らかに押されているはずの
メフィストが、悟空に不敵に
笑ってみせる。
「負け惜しみは、やめろ。
てめぇに百歩神拳は破れねぇ」
「そうかな!?
共闘の条件の時、
キミはこう言った。
自慢の不死身は、
どうしたんだと。
持久戦に持ち込めば
有利じゃないか、とね。
エクシードとなった僕は、
バカニャンの攻撃でも
死なない耐性を身につけた。
しかしキミは違う……
体力は消耗し、いずれ
技も撃てなくなる。
その時が最期だ!」
無尽蔵に湧き出る魔力を
我がものとしたメフィストは、
どんなにボロボロであろうと
余裕を崩さなかった。
「おもしれぇ。
回復が間に合わないぐらいに
叩きこむしかねぇな!」
悟空が更に百歩神拳で
メフィストを追撃する。
悟りを開いた悟空の拳は
全弾メフィストに命中するも、
防御の体制で守りに徹しはじめる。
スタミナ切れを待つのであろう。
疲労で徐々に動きが鈍くなる
さまを見たホムンクルスが、
かぶっていた帽子をとる。
「悟空。
僕を造るようファウスト博士に
命じたのは、メフィストではなく、
グシオンです」
「……こんな時に一体、
何を言ってやがる!」
ホムンクルスの意図を計りかね
悟空が眉間にしわを寄せる。
「悪魔が人や恐竜に寄生し
乗っ取る事が出来るように、
魔人も例外ではありません。
メフィストが
書にこだわるのは、
打倒イートニャンの中に
自分自身との闘いも
含まれていたのです。
サンジェルマンの時と同じ、
最後は自分がシードに人格を
乗っ取られる事を恐れて……」
「チビめが、黙れッ」
エクシードに進化を遂げてから、
崩れる事のなかったメフィストの
余裕が剥がれはじめる。
自身の中に埋没した
グシオンの目論見を
知らなかったのであろう。
「奴の素顔を見たせいか、
以前ファウスト博士から
聞いた事を思い出しましたよ。
いや、それこそが封じられた
記憶を解除するトリガーだった、
とでもいいましょうか……
グシオン曰く、
僕が運命共同体であると。
体を乗っ取ろうと企むグシオンが、
逆に魔人メフィストに取り込まれ、
最後に一矢報いるため
僕を作り出したのです」
「だ、黙れッ!」
激昂したメフィストが瞬間移動で
ホムンクルスの小さな体を手で捉え、
締め上げる。
「フフ、お前に僕は殺せない。
悟空、やる事は、わかってますね……」
もう一言たりともしゃべらせまいと、
メフィストは握った拳を力ませる。
ホムンクルスは表情を苦痛に
歪ませつつも、魂を絞り出す
ように語りかける。
「ぼ、僕は自害
できないプログラムが
組み込まれているようです。
あなたが、やるんですよ……」
「チビが分身だなんてハッタリだ!」
「……てめぇをイートニャンの
もとへ行かせるわけにはいかねぇ」
「仲間をやれるのかい!?
僕を倒せば、ネクロノミコンの
暴走でキミも爆発に巻き込まれ、
死は免れないぞッ」
悟空が重心を
低く構えはじめる。
「や、ヤメロォォォォ!!」
メフィストの絶叫と共に、
悟空の最期の百歩神拳が
ホムンクルスの小さな体を砕く。
直後、大爆発と同時に
一つの巨大な光の柱が
天へ向かい放出されるのであった。




