狼煙 -兵-
「クソッ、キリがねぇ!」
動力部に近い悟空たちは、
押し寄せる飛龍の大軍に
少しずつ後退を余儀なくされ、
いよいよ動力源のエンジン室の
一歩手前まで追い詰められていた。
場所が場所なだけに派手に暴れ、
動力炉にもしもの事があったらと考え
悟空も慎重にならざるを得ない。
メフィストもやや息が上がっているものの、
なにか勝算があるのか狼狽えた様子もなく
エンジンルームの扉に手をかける。
「やはり、ここにあったか……」
「おい、どこへ行く!?」
この絶望的な状況では他の戦線から、
味方が助けに来てくれる可能性も低い。
そんな状況だからこそ、
悟空とホムンクルスは最深部へ
後退したメフィストの挙動に
目が離せない。
「あそこを見てごらん」
メフィストがのんきに
エンジンルームの中央を指さす。
そこには昨日の夜、
ドラクルが話したとおり
ネクロノミコンが台座に設えてあった。
「……オッサンの言ってた通り、
アレが動力源だったんだな」
「ほう?
大魔王のおじ様は、
保管場所まで知ってたのか。
メビウス総司令しか
知りえない情報なのにね。
まぁでも元々ここにあった物が、
やがて時を越え、今は僕の手にある。
つまり、過去と未来、二冊も
ネクロノミコンが揃うってわけ……」
愉快でたまらないとばかりに、
メフィストが歓喜に震えてみせる。
「何を悠長に構えてやがる。
ここに飛龍が浸入したら、
お終いだろうが!」
「ま、まさか、
あいつの狙いは……」
二冊揃ったネクロノミコンを見て、
ホムンクルスは昨日のメフィストの
言葉を思い出す。
ファルザードの動力源にも
なりうる高エネルギー体の結晶。
そのネクロノミコンをもってしても、
グシオンこと、メフィストは50%
程度しか力を発揮できない。
しかし、もしネクロノミコンが
二冊あったとしたら————
二つの書の力がメフィストの
体に流れ込み金色に輝きだす。
「ふうぅぅぅぅ……
もはや、僕はデモンイーターの力を
もってしても葬れない真の不死。
シードを越えし者、エクシード
とでも呼んでくれたまえ」
メフィストの剣が輝きを増し、
切っ先から光が放たれると、
動力部に侵入してきた
飛龍を一瞬で両断する。
「ホム、俺様から離れていろ!」
魔力だけでなく素早さも
段違いに向上したためか、
メフィストは後に続く飛龍たちを
高速で斬り刻んでいく。
「さて、ドラゴンも倒した事だし、
バカニャンを今すぐ始末する事も
可能になった。
あとは江戸でやった精霊との
手続きを済ませたいところだけど————」
飛龍の眷属たちを倒したメフィストが
握っていた剣に魔力を集中させると、
直後、時空移動で姿を消す。
が、その動きを正確にとらえた悟空が
弐式で太刀を防ぐと、互いの武器が
激しい衝撃で砕け散る。
「てめぇとの対決、
待ちくたびれたぜ」
「馬鹿な……
見えたというのか」
フェノメノンとの
修行で得た悟りの力、
そしてこれまでの修羅場を
潜り抜けてきた経験が、
超越者となった
メフィストと拮抗するのであった。




