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イートニャン  作者: 坂本龍馬♀
―ファルザード―
239/273

晩餐 -人-


ハレルヤとイートニャンが

食堂を去り、しばらくして

二人の人物がやってくる。



「あら、アリスさんじゃない」


「アリスでいいですよ」



八百の言葉に女性研究者は

砕けた態度と年相応の

笑顔で応じてみせる。



「そっちの人は?」


「僕はゴミィ、空中都市の軍医だ」



黒いコートの人物が額の位置に

指を添えて挨拶ハンドサインをする。


口調は男っぽいが

表情には少女じみた、

あどけなさが残る。



「ゴミィはね、

ハレルヤ博士と双子なの」



「へぇ、()()()()に……」



ハレルヤというよりかは、

イートニャンの事を思ったのか。


ホムンクルスが

意外そうに目を丸くする。


フェミニンな雰囲気の

白い服装のハレルヤとは対照的に、


黒を基調とした服装と口調のせいか

ゴミィからは硬派な印象が、

かもしだされていた。



「ま、クソ科学者の血縁どうし、

アリスとは苦労話で気が合うのさ」



「……いま聞き捨てならない

言葉が混じっていたようだが?」



端で話を聞いていたメサイアが

眉間にしわを寄せゴミィを睨む。


つれないハレルヤと違い、

歯に衣着きぬきせぬゴミィはメサイアに

とって腐れ縁の喧嘩仲間らしい。



「兄さん、研究も大事だけど、

あまり無理はしないでね」



アリスは、やつれてしまった

兄の目のクマを見つけ、

心配そうにいたわってみせる。



「ようやく、四機目を

完成させられそうなんだ。

多少の無茶は許してくれ」



メサイアは技術屋としての、

はやる気持ちを抑えきれず、

心配する妹にバツが悪そうに

頭をかきむしる。



「これで飛龍との戦いも

少しは楽になるはずだ。

そしてこの戦いに勝利した時、

機神が人を導く()()()()となる」



自信に満ちたメサイアの言葉に、

それまで八百の隣の席で

目を瞑っていたドラクルが、

ゆっくりとまぶたを開ける。



「……導くと申すか。

では余が今、何を欲しているか。

機神は心を当てられるのか?」



ドラクルがテーブル上の

ワインを一気にあおってみせると、

メサイアが眼鏡のブリッジを

片手でグイっとおさえてみせる。



「何が言いたい?」



「貴様は技術さえあれば理想が

叶うと思い込んでいる愚か者だ」



「ちょっと、大魔王様!

こんなとこで喧嘩は止めて」



「いいから、やらせときなよ。

あんたは、こっちで僕らと飲もうや」



気分が高揚こうようしたドラクルが

辛辣しんらつな言葉を吐くと、

危険な空気を察した八百の制止を

黒衣の軍医ゴミィが妨害する。



「愚かだと……」



その押し殺した怒気が

メサイアの技術屋としての

プライドを傷つけたようであった。



「このワイングラスも、

用途は違えど目的を果たす

ための道具でしかない」



「当たり前だろ」



「だが、機神は天人どもに

生きる目的を教えてくれるのか?」



「いいや、

どんなにAIが発達しても、

問題を提起ていきし命令を

与えるのは人の役目だ。

機械は膨大なデータをもとに

考える事はできるが、人のように

問題を作り出す事はできん」



「問題を作り出す、か。

機神の導きはどこへいった」



「機械は目的のために計算し

処理的に思考するものだ。

何を正義とし、何を美とするか、

それは人が決めるしかあるまい」



「分かっているなら話は早い。

つまり、価値観の創造とは

知性を持った者の特権だ。


それは何故か?

死を迎える有限な

存在であるからだ。


限りある生の中で

死を自覚するからこそ、

生あるうちに自分にとっての

価値を求めようとする」



「機械も燃料と動力が

絶たれれば有限だが?」



「死が何であるか、

機械は本能的に理解できぬ。


このワインの味とて同じだ。

成分で味が分かる訳ではあるまい。


飲んだ者にしか分からぬ

理屈ではない生きる喜びが、

この小さな杯に込められているのだ」



「……ドラクル卿。

あなたは、とんだ詩人のようだ。

そんな言葉が何になるというのだ?

今は戦時であり、我々に必要なのは

詩ではなく()()()なのだよ」



「ほう、機神の価値とは

飛龍を滅するためにあると。


では、その後はどうする?

危険な力を処分せずにシンボル

とやらで残しておくというのか後世に。


それが新たな戦いを

呼ぶとも知らずに

何を導くというのだ」



「滅せねば我らに明日はない。

そして新たな敵が現れる事を

想定し残しておくのだ。

何も廃棄する必要はあるまい」



「武力が必要であるにせよ、それは

大切な存在を守るためにあるのだ。

時代が変わり兵器の威力ばかりが

強力になるが、それを忘れるな」



幾多の時代を潜り抜けてきた

ドラクルの厳しい表情には、

哀しみと慈しみが不思議と

ない交ぜになり、にじみ出ていた。



「守るべきものがあるからこそ、

私は研究以外を捨て去り

研究に打ち込んできた。

それが間違っているとは思えん!」



「……兄さん、もういいわ」



八百とゴミィと飲んでいたアリスが

メサイアとドラクルの間に割って入り、

論争する二人を仲裁する。



「アリス……」



「ふむ。

その様子では共に美酒を

交わす友もできまい」



和解のしるしとして

ドラクルはもう一杯、

グラスにワインを注ぎ勧める。



「私は一人で静かに

飲むのが好きなんでな」



メサイアはドラクルの手から

ボトルを掴むと、そのまま

不貞腐れたようにアリスや

ドラクルたちから背を向け、

食堂を後にする。


今更わざとらしく馴れ合いの

酒盛りをするくらいならば、

研究室に戻り一人酒で疲れを

癒すつもりなのであろう。


見渡せば夜も深まり、

他の天人たちは夕食を済ませていた。

狐もいつの間にか姿を消している。



「みんな、もう

部屋に戻りましょうか」



「ったく、どいつもこいつも、

静かに酒も飲めねぇのかよ」



勢いよく席を立つ悟空を横目に

八百が食堂の窓から星空を眺めると

翌日、再びメビウスの会議室に

一行は呼ばれるのであった。



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