晩餐 -天-
食堂に案内された一同が
テーブルの上に見たのは、
芋で作ったチューニョだけではない、
トウモロコシに似た植物で作った
酒にサラダまである。
「こりゃまた豪勢だなぁ!」
「畑のは試食みたいなもんだしね☆」
「僕はさっきのも美味しかったですよ?」
すでに夕食を取っている
天人のクルーたちに交じり、
イートニャンたちにとって
良く見知った先客の姿もあった。
その先客は食堂の隅で影のように
ひっそりと一人で晩酌をしている。
短く切りそろえた艶やかな黒髪に、
東洋的で中性的な整った顔立ち。
面こそ外しているが忍者の装束に、
女性と分かる、たわわな体の線。
机には狐の仮面が置かれている。
「あなた!?」
恐る恐る八百が
歩み寄って声を掛ける。
「何か用か、美国八百子……」
そっけない反応で素顔を
晒したままの狐がそこに座っている。
「グシオン一味の中では、
キミだけが会食に参加ですか」
食堂に集まった天人たちの中に、
メフィストと天狗の姿がないか
見まわしていたホムンクルスが、
少し警戒したように言葉を漏らす。
「……あの野郎が来たら
飯どころじゃなくなるだろうが」
悟空がせいせいすると
ばかりにご馳走を貪る。
一方で、狐としては天人や
イートニャンの言動を監視する
意味合いでここにいるのであろうと
八百は推測する。
「どうだ、一献」
「……何?」
「これが最後の晩餐になる」
フェノメノン同様、無口な狐から
酒を勧められるとは思っても
みなかった悟空が意外そうに眼を見開く。
「この白濁した色合いと
麹の香りは、どぶろくですか」
「そうだ」
ホムンクルスも、なみなみと
杯に注がれた酒を興味深げに覗く。
狐の呑んでいた酒は、狐が元居た
日本の戦国時代で一般的だった
濁り酒の一種らしい。
「まさか毒を盛るなんて
真似は、しねぇよな」
「……そなたの眼は、この酒の
成分までは見抜けないのか?」
狐の使っていた杯をそのまま使い、
悟空は注がれた濁り酒を
軽快にあおってみせる。
「酒の中身まではわからねぇが、
おめぇが別嬪なのは、わかるぜ」
「という事は、狐の分身とやらの
彼も女性なんでしょうかねぇ?」
ホムンクルスが相変わらず無言で、
食事にさえ手を付けないでいる
フェノメノンに目線を移す。
「けっ、覆面をとらねーどころか、
メシも食わないのか、てめぇは」
「まぁいいじゃないですか。
彼が何者であろうと、僕らを
裏切る事は無いでしょうよ」
悟空をなだめつつ
ホムンクルスもまた、
フェノメノンとは結局
最後まで心を許す事もなく、
この旅を終えそうだという
思いからため息を吐く。
「……そういえば、
思い出したんですがねぇ」
大好きなポテト料理をたらふく食べ、
血のめぐりも良くなったホムンクルスが
昼間のメフィストの言葉を思い出し、
ある疑問を呈する。
「僕の出生についてなんですが、
ファウスト博士は、グシオンの言葉に
従って僕を造ったんですよ……」
「それがどうしたのホム君?」
いきなり神妙な面持ちになった
ホムンクルスに八百が問いかける。
「博士に指示したのは、
どちらだったんでしょうか。
一体なぜ、そんな事をさせたのか
引っ掛かるんです」
「ホム……」
悟空が真剣なまなざしで
ホムンクルスを見据える。
「僕を生み出したのは、単に
自分の知識を博士に見せたかった
だけではない気がするんです。
今まで見てきたグシオンの
自我がメフィストだとしても、
悪魔であるグシオンは
ゴエティアに反応しているので、
あの体に留まっている事になります。
ではグシオンの自我は、
今どこまで残っているのか……」
「その話はよせ!」
それまで黙って聞いていた悟空が、
酔いが醒めてしまったように、
いきなり遮ろうと声を上げる。
「なぜです悟空!?」
「野郎の話は酒がまずくなる」
突然感情的になる悟空に、
ホムンクルスは驚き、
悟空は不吉な
何かを感じ取ったように
冷や汗をかいて焦っていた。
「……騒がしいぞお前たち」
イートニャンが食事を終えて
ソファに寝転がっていると、
聞き覚えのある声が部屋に響く。
「あら、そのうぜぇ眼鏡は、
メサイア博士じゃん!?」
空中都市の科学責任者として多忙な中、
メサイアも食事をとりに来たらしい。
「いかにも私がその
うざいメサイア博士だ……
って、いい加減にしろ。
そんなバカ話より、その様子では
納得いってないのであろうな」
「そりゃ、そうでしょうw
奴らと何回死闘したと思ってんの」
「私もあの仮面の者たちは信用していない。
むしろ君たちこそ信頼に値するとみている」
「ふーん?
姿だけなら仮面よりも、あたしのほうが
怪しく見えるんじゃないの、バケモノだし」
「姿だけならな……」
メサイアもイートニャン達と同様に
ハレルヤに対抗するあまりか、
メフィストらへの不信を口にする。
しかし、こちらにすり寄ってくる
メサイアの意図を計りかねて、
イートニャンがあいまいな返事で返す。
「実は、三日前に、
あの仮面騎士が助太刀する前から、
ハレルヤは仮面騎士と接触をしている」
「まぁ、そうでなきゃ、いつ天狗を
造ったのか説明できないからねー」
イートニャンも会議室での
ハレルヤの発言を思い出し、
不自然な点を指摘する。
この時点においてハレルヤに
造られるはずのドラクルも、
メフィストも存在していない。
その代わりに天狗という魔人を
自ら造ったと、ハレルヤは
自慢げに語っていた。
仮に自身の生まれる前に
遡ったメフィストが、
ハレルヤをそそのかし、
メフィストと、
ドラクルを造る代わりに、
更に強力な魔人である天狗を
造るよう提案したとする。
メフィストには
イートニャン達と戦いで得た、
生体兵器としての戦闘検証がある。
その知見を基に、ハレルヤの技術で
デモンイーターに負けない魔人を
造らせる事は試行錯誤を重ねれば
十分可能であろう。
問題は今から三日前に既に天狗が
メフィストの一派として現れていたこと。
どこからともなく
現れた味方を装う前から、
ハレルヤ博士はメフィストから
イートニャン達について
聞かされていた事になる。
と、なればメフィストの何かしらの
企みに加担している可能性が高く、
場合によっては、ハレルヤを敵に
回す事も視野に入れねばならない。
「ハレルヤが造った魔人は驚異的だ。
飛龍や機神に引けを取らないほどにな。
それに比べ機神は乗り手が必要だ」
三日前に飛龍と戦ったであろう、
メフィストたちの活躍を
間近で見たメサイアが、
悔しさをにじませる。
科学部門のライバルの造った
魔人のおかげで空中都市が
守られた事は認めつつ、
その怪しさも否定できない以上、
メサイアは独自に自身の発明を
活かせないかと、苦悩と思案を
重ねている様子であった。
「ま、チミの言いたい事は、
よーくわかるよ☆」
同じ科学者として
イートニャンが
同情しかけた矢先————
「ならば乗ってみないか?」
「ぇ?」
突然の提案にソファーから
イートニャンが飛び上がり、
天井に頭をブツけ
屁をこくのであった。




