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イートニャン  作者: 坂本龍馬♀
―ファルザード―
236/273

動力源


夕暮れ時————

空中都市ファルザードの

眼下には雲海うんかいが広がっている。


雲は赤い夕日を浴びて

オレンジがかった黄金色に

輝き放っていた。



「どうだ、天からの

景色は美しいであろう」



ドラクルが珍しく晴れやかな

顔でその風景を評する。



「巨大な、きん斗雲みてぇだ」


「言葉に出来ませんねぇ……」



太陽と積乱雲の織りなす

水と光の神秘的な芸術。


この絶景を前にして

イートニャンらも一瞬、

先ほどのメフィストたちとの

いざこざを忘れ、心を洗い流す。



「しかしよぉ、

こんなデケェもんが、

どうやって浮いてんだ?」



「……たしかに陸地と

見間違うほどの巨大な構造物ね。

その動力源は私も気になる所だわ」



「余が持っていた書が

この空中都市……

元は宇宙船であった

ファルザードの動力源だ。

文明が崩壊する際、幸運にもそれを

手にする事で、生きながらえる事が

できたのだよレディ」



八百の疑問にドラクルが、

あっさりとカラクリを答える。


無尽蔵の魔力を秘めるといわれる

ネクロノミコンであれば、

巨大な金属の塊を天高く浮かび

上がらせるのも可能らしい。



「うう、寒っ!

体に染みるとはこの事ね」



イートニャンが天の風に

たまらず身震いし鼻水を垂らす。


雲よりも高い高度となれば、

その寒さは裸同然のイートニャンに

とっては文字通り骨身に染みる。



「こんな場所で、

天人たちは食糧をどうやって

確保してるんでしょうかね博士」



「……水はまぁ、水蒸気を

集めるなり出来るんじゃないの」



ここには陸地も川も海もない。

つまり動植物は無い事になる。

イートニャンも食料に

ついての謎に首を捻る。



「あれって畑じゃねぇのか?」



しばらく歩くと

悟空が中庭の土壌が

敷き詰められた区画を

指さしてみせる。


そこにはジャガイモの花に

そっくりな植物が顔を出していた。


近寄ってよく見ると、

一つの畑に幾つもの

種類の芋が植えられている。



「お、チミたちも食べてみるかい?

故郷の星から持ってきて植えたもんだ」



ちょうど芋を地面から

掘り起こしていた農夫が親し気に

イートニャンらに話しかける。



「あんもぉ、苦い!」


「うご、食えたもんじゃねぇ……」



芋に含まれるソラニンという

毒素が多く含まれているせいか、

がっついたイートニャンと悟空は、

その苦味で思わず吐き出してしまう。



「そっちじゃなくて、

こっちだよチミィーッ」



農夫はフリーズ

ドライにしたような、

ペシャンコになった芋を

イートニャンに差し出す。


見た目は干からびた

ジャガイモそのものであるが、


本来のねっとりした、

でんぷん質の舌触りはなく

代わりに水分の抜けきった

シャクシャクした触感が

不思議であった。



「これは夜に外に

置いて自然に冷凍させ、

昼にまた解凍するんさ。

何度か繰り返すと芋がぶよぶよになって

指で押しただけで水分と毒素が出る。

この干し芋は何年でも保存が効くから、

ここじゃ重宝してるってわけよ」



農夫が勧めた乾燥芋の

種明かしをしてみせる。



「ふぅん、なるほど。

きびしい環境ならではの

生活の知恵ってやつですねぇ」



「にしても、味気ねぇぜ。

なんでもっとマシなのを

栽培しねぇんだ」



ポテチジャンキーのホムンクルスは

農夫の知恵に感動したようであったが、

悟空は芋の品種にケチをつける。



「ま、普通のジャガイモは、

標高4000メートルくらいまでしか

栽培できないけど毒素が強い芋は、

それより高い高度でも育つのよ。

アンデスのジャガイモ料理

チューニョにそっくりね☆」



植物学にも造詣が

あるイートニャンには、

この芋の性質が理解できる。


雲よりも高い高度に

位置するファルザードは最低でも

地上から5000メートルは超える。


その酸素の薄さ、

気温の寒さなどの

過酷な条件が重なり、


農業ができることさえ

奇跡的な環境といえる。


そして美食家でもあったヴァカ博士は、

昔ペルーに旅行しにいった時の

食の思い出に浸る。


後世おなじく天に近いインカ文明が

生み出したジャガイモ料理と同じものが

時空を超えて人々に食されていたのである。


隣の畑で芋の収穫に

勤しんでいた別の農夫が、

農場に隣接した都市内の区画を指さす。



「メビウス司令殿から、

言いつかってるよ。

晩飯は遠慮しねぇで、

たらふく食ってくれや」



食料生産に従事する農夫たちが、

素朴な笑みを浮かべて一同をもてなす。



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