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イートニャン  作者: 坂本龍馬♀
―ファルザード―
230/273

死海文書


パリでの闘いを終え、

数日後————



ラボのミーティングルームに集まる一同。

そして抹殺書ゴエティアの名簿を

童顔の少女が指でなぞる。


残っている悪魔シードは残り数体。

しかし、リストを見つめる

少女の様子はどこか険しく、


張りつめた覚悟を

感じさせるものであった。



「もうすぐ終わるっちゅーのに、

何をそんなに緊張してんの」



先の修行で奥義を習得したイートニャンは、

強敵であるアモンを難なく破った事から

自信満々に口笛を吹く。



「そうだぜ、ようやく、

ここまで来れたんじゃねぇのか……」



イートニャンと同じく修行の末、

悟りの境地に到達した悟空が座禅を組み、

静かに瞑想しながら妖気を研ぎ澄ましている。



「これが我々にとっての最後の時間遡行タイムトラベル

最も過酷な闘いになるという事だからだ」



仲間達の中で、フェノメノンが

懸念けねんを代弁すると、

ようやく八百が口を開く。



「そうね……

次が最後の冒険。

向かう先は、はるか

6600万年前、中生代よ」



「それって白亜紀はくあき

末期じゃないですか」



()()()、その時代が

最後に残ったか……」



イートニャンの肩で

座っていたホムンクルスと、

八百の肩にとまっていた

コウモリ姿のドラクルが口を開く。



()()()

そもそも何で、白亜紀を

最後にとっておいたわけ?」



「博士、実はですね————」



八百はアタッシュケースから

数枚のプリントを他の面々に見せる。


そこには太古の遺物らしい何かを

描いたものが映し出されていた。


事の発端は数年前、富士山麓ふじさんろく

6600万年前の地層から発見された

通称『死海文書』が始まりである。


それは紙のような外観ではあるが、

ほとんど劣化せず、まるで

つい先ほど書かれたような

状態で財団によって発掘された。


その最重要機密情報によると、

6600万年前の地球に天に浮かぶ

文明が存在したらしい。


文書の絵には、天に浮かぶ都市らしきものと、

その周囲に巨大ロボットを操る人らしき存在、

翼の生えた龍のような生物の戦いが描かれていた。


翼の生物の存在については、恐竜のように

化石こそは見つかってはいないものの、

文面からは6体の悪魔の化身が浮上し、


これこそが72柱なのでは

ないかという論考がある————



「アホくさw

SF映画じゃないんだからさ」



八百の説明にイートニャンが、

まんざらでもなく太古のロスト

テクノロジーにウズウズと

身悶えし出すと、


ドラクルが思い出話に

浸るようにポツリと漏らす。



「天人たちの文明はファルザードという。

飛龍との闘いで相討ちとなり滅んだのだ」



「え!?

組織の資料にも文明の名前までは解明

できなかったのに何故、大魔王様が……」



「ちょっと待った。

相討ちって、その時代にいた

悪魔シードは今どうしてるの?

どんな兵器でも奴らは消滅しないんでしょ?

あたしの捕食じゃないとさぁ」



やたら死海文書よりも詳しい

大魔王ドラクルの事よりも、

72柱の悪魔シードの生存が気になる

イートニャンが話をさえぎる。



悪魔シードは不死身ですから。

長い時をかけて散った体を再生し、

現代の海底深くの魔界都市、つまり

例のサルガッソみたいな場所で

別の星へ移民する事でも考えて

いるんじゃないかと思う」



「……壮大な話ですねぇ。

地球を征服するより宇宙への

移民を目指すのですか?」



ホムンクルスが意外そうに首を捻ってみせる。



「今の人類も地球を破壊

できる兵器を持ってるでしょ。

人類を追い詰めた挙句、それを使われて

地球が台無しになるくらいならば、

ライバルの居ない宇宙に進出する方を

選ぶのでは、っていう財団の学者達の仮説よ。

現に今、奴等は中々地上に出てこないからね」



八百が自嘲気味に呟いてみせると、

ドラクルが、どこか切なげに

皆に語りかける。



「……あまりにも長く

生きてきた余ではあるが、

貴様らと過ごした時間ほど

濃密な日々はなかったぞ」



「急にどうしたのw

まだ旅は終わってもないっちゅーのに!」



「まったくだぜ。

しかし、この戦いが終わったら……

おめぇらは、もといた時代に帰るのか?」



座禅を組み静かに

瞑想していた悟空の両目が、

ゆっくりとひらかれる。



「……ここに残る、

という選択肢もありますよ。

なにかと生活が便利な時代ですからねぇ。

でも、僕はファウスト博士のもとへ戻ります。

あなたも故郷へ帰るのですか、フェノメノン」



「フッ、無事に生きて

終わればの話だがな……」



「ではこの戦いに勝利したら、

ブラッディ・マリーで祝杯を挙げよう」



それぞれのメンバーが互いに

視線を合わせ笑みを浮かべる。



「さ、いきましょうか博士!」



八百の合図と共に、長きに渡る

イートニャン達の最後の冒険が

始まるのであった————



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