二律背反
爆炎と共に館の一部が炎に包まれ、
アモンが眷属を引き連れ現れる。
「地中にコソコソ
隠れておったとはな。
それも今日で終わりだ!」
イートニャンと悟空がアモンを
前にして無言で歩み出る一方、
ドラクルとフェノメノンは満足げに
二人の背中を見守っている。
「あれ、フェノさんと、
大魔王様は加勢しないんですか?」
「私たちの役目は、
もう終わった」
「今のあやつらに
助けなど不要だ」
稽古相手になった二人が頷くと同時に
アモンが炎を吐き出すと悟空は
昨日の戦いを思い出す。
炎はイートニャンの水の技で
消し止める事が出来なかった。
そして、ドラクルは、
ただの炎ではないと言っていた。
悟空自身もあの時、その炎に
何か違和感を覚えている。
それは決して悪魔の放つ
禍々しい魔力だけではないと
今はハッキリと分かっていた。
「何の事はねぇ。
奴の炎の半分は幻だ!」
「……え、そうなの?(*'ω'*)」
「俺様の言う方向に突き進め!
そこは炎が回ってねぇからな!」
悟空が眷属たちを
弐式で蹴散らしながら、
炎の中で進むべき方向を
イートニャンに指し示す。
「わかっちゃうと、
チープな手品ねw」
指示に従い、イートニャンは
幻術で作られた炎の中に
ナイフを召喚し飛び込む。
「馬鹿なッ!
なぜ炎を恐れぬ!?」
「このフェイク野郎☆
喰らいなさい、究極奥義を!」
太極レンズが回転し金色に輝きだす。
瞬間、イートニャンの脳裏に
目の前の敵を調理するための、
技のレシピの組み合わせが明確に現れる。
アモンが攻撃するよりも早く
無拍子で、まず先手を取り、
続いて下から頭突を食らわせ宙に浮かし、
足技で空中から地面へ叩き落す。
最後は着地中に回転斬で
残りの眷属ごとアモンの体力を削り
弾き飛ばす。
これらの動作を寸分の隙も
無駄もなくやってみせた。
「ぐっ、これは!?
私が思い描いていた————」
アモンは自らが抵抗する間もなく
倒された事を理解し、地面へと
その巨体を地響きと共に横たえると、
イートニャンが体の回転を止め
綺麗に立ち止まってみせる。
「……決着だな」
ドラクルが修行の成果を体現した
イートニャンに賞賛を送ると、
その横でフェノメノンも静かに
頷き、悟空を見つめている。
「グハハハハ!
大願、今まさに叶ったり!」
倒れ伏したアモンの顔の部分が、
サンジェルマンの素顔へと戻る。
白髪をカールした優雅な
面持ちの初老の男の顔が
そこにはあった。
表情は自らの血に
塗れながらも高らかに、
最後の力を振り絞るかのような
笑い声を上げていた。
「サンジェルマン。
君が悪魔になってしまったのは————」
カリオストロは再会したかつての
盟友の口ぶりから真の目的を悟り、
啞然とする。
「久しぶりだな。
そう、私は悪魔喰の
能力を完全なるものとするため、
自らシードを見つけ出し食らったのだ。
この強固な肉体と、全てを知る私の頭脳が
合わさった最強の悪魔を倒せねば、
デモンイーターの名に値しない」
「あの時、逃げる私たちを
追わなかったのも、奥義の
完成を見極めるためだったの!?」
八百がデモンイーターを完成
させんとするサンジェルマンの
研究者としての執念に息を呑む。
「……美国八百子、
一度話をしてみたかった。
いずれ、お前もこうなる身だからな」
サンジェルマンの宣告に、かつて
ラスプーチンと戦った時の事例を
思い出したイートニャンが割って入る。
「あのねぇ、八百つぁんは修行して
シードの魔力を克服したのよ。
現に1000年以上、人間の
自我を持ってるじゃん?」
「ククク、それはどうかな。
強い目的意識があるならば、
自我を保ち、悪魔の本性を生かし
続ける事は矛盾しないのだ。
だからこそ人を超えた大業を為せる。
……この私がその一例だ」
研究者としては同じ博士
でもあるイートニャンが、
サンジェルマンの善悪を超えた
執念に何も言い返せなくなると、
代わりにホムンクルスが反論してみせる。
「貴方は悪魔を駆逐するためとはいえ、
パリの大勢の人の命を奪いました。
その行いを正当化する理由が、
あって良いはずがないでしょう」
「……確かに、悪魔を倒すために
悪魔になるなど笑えん喜劇だが、
私の狂気と執念があればこそ、
そいつは奥義を完成し、
目論み通りこの私を倒してみせた。
これは必要悪なのだよ」
「世界を救うために、
大勢の命を犠牲にする。
二律背反ね……」
八百はサンジェルマンから
目を逸らして呟く。
「さぁ、私の役目は終わった!
デモンイーターよ、はやくしたまえ!」
サンジェルマンは、
悪あがきをするでもなく
逃げる事もしなかった。
あるのは死への恐怖でもなく、
ただ己が野望を素材として
完成したフルコースの人生。
その終焉までを味わいつくした
満足げな顔であった。
「まったく、大した自己主張ね」
イートニャンがフォークを構え、
サンジェルマンに近づいたその瞬間。
悪魔の顔へと逆戻りする。
「馬鹿め!
アモンであるこの私が
大人しく食われると思ったか!
ちねーーーーーーーーーーい!」
この至近距離なら奇襲は成功すると
静かに狙っていたアモンの牙が、
イートニャンの首筋へと襲い掛かる。
「あもん、あんもぉ☆」
「あイタぁーーっ!?」
こんな往年のボケのような奇襲に
引っ掛かるイートニャンではなかった。
アモンをカウンターでド突き、
あっという間に胃袋におさめる。
「……よくやってくれた。
奥義はイートニャン君の
戦いそのものの結晶だよ。
技の組み合わせ次第で
変幻自在に活用できるはずだ」
カリオストロが手を叩き、
イートニャンたちを祝福する。
「覚えた技の数だけ組み合わせによる
色々な連続攻撃ができるって訳ね。
こりゃ想像力が試されるわ☆」
「これを受け取りたまえ。
我々が保管していたカブレラストーンだ」
「……ありがたく頂戴します総帥」
いつものお決まりの石を
八百が受け取ると、石は
不気味に赤く光輝いていた。
「これで残すは————」
その赤い石を横目に
フェノメノンが天を仰ぎ、
どこか遠くを見上げるのであった。




