奥義 -弐の間-
イートニャンとドラクルが
向かい合っていた同時刻。
隣の部屋では悟空と
フェノメノンが
向かい合っていた。
分厚い硬質の壁越しにも
ドラクルの放った大魔法が響く。
「おうおう、
隣は派手にやってるじゃねぇか。
で、おめぇは何をみせてくれるんだ?」
悟空が得物である
如意棒弐式を握りこむ。
「……彼の事です。
この戦いには意味があるのでしょう。
僕はあなたの成長を見届けますよ」
「けっ、いまさら、
何の意図があるっつーんだよw」
肩に座っていたホムンクルスが
観覧席へ飛んで行くと、相手を
務めるフェノメノンが、悟空の
様子を冷ややかに見据える。
「今のままでは、お前は私に
指一本触れる事なく敗北し死ぬ」
「……何っ!?」
露骨に見下した
フェノメノンの言葉に
悟空は一気に頭に血がのぼる。
「これは試練だ。
一発でも触れる事が
できれば勝ちを認めてやる。
できなければ死んでもらう」
非情なセリフと共に笛を吹くと、
悟空の前に5人に分身した
フェノメノンの姿が現れる。
「まだそんな技を
隠しもってやがったのか」
毛をむしり、慌てて悟空も同じ
身外身の術で応戦しようとするも、
フェノメノンたちは素早く
悟空の間合いに入り、
反撃の隙を与えず、
まるでアユタヤ武術会の
猛者たちが繰り出すような
打撃技をうけ続ける。
「ぐっ、フェノが、
こんな体術まで……」
分身の一体が繰り出す
手刀をなんとか弐式で防ぐも、
一撃で真っ二つにへし折られてしまう。
「ばかな!?」
グシオンの手刀でさえ
ここまで鋭いものではない。
一体フェノメノンという
人物の底力は、どれほどなのか。
悟空の目には今まで笛の力で戦う
魔術師のような人物に映っていた。
それが、まさかこんな武闘派だった
とは思いもよらなかったのである。
「「どうした、手も足も出ないのか?」」
フェノメノンの分身たちが
口を揃えて悟空を罵る。
「……どうやら、こっちも、
とっておきを使うしかねぇようだ。
フェノ、お前にこれが、かわせるか!?」
分身した悟空たちが
重心を低く落とし拳に
妖気を溜めはじめる。
「加減はできねぇぞ!
くらえ、全方位・百歩神拳だッ!」
干将との再会により、
ついに完成した百歩神拳。
それを分身した状態で放つという、
まさに『秘奥義』を使う。
————しかしその瞬間、
神速の気弾がフェノメノンの
分身たちに全て紙一重でかわされる。
「なにっ?!」
「それで終わりか、死ね」
万策尽きた悟空は再び分身たちの攻撃に、
なすがままにされる一方で意識は不思議と
走馬燈のように様々な事に思いを馳せていた。
これまでの旅路、
少し前のエンデルーンでの日々。
一体何が現実で、何が幻想なのかと————
戦いの日々を通じ強くなったはず。
それが何故こうなるのか?
景色が歪み、無機質な空間で悟空と
フェノメノンだけが動いている。
「……待てよ、そういや、
観戦しているホムの姿が見えねぇ」
あまりに一方的な展開に飽きて、
隣の部屋に行ってしまったのか?
「ご……い……か」
雑音のようにも聞こえる誰かの声。
思わず悟空は耳を澄ませる。
「悟空、い……です…か」
かすかにホムンクルスの声が聞こえる。
最初からそこにあって当然のものが、
なぜか耳に入らなかった様である。
更に静かに意識を深く
研ぎ澄ませてみせる。
「悟空、一体何をしているのですか!?
動きなさいッ!」
ホムンクルスの声が、そして
姿が悟空の視覚と聴覚に入る。
心なしか今まで自分をいたぶっていた
フェノメノンの分身たちは、
影のようにその存在が薄く見える。
攻撃による痛みも今の悟空は、
あまり感じない。
「そういう事か。
人が悪いぜフェノ……」
自分を取り戻すため
大きく深呼吸してみせると、
襲い掛かるフェノメノンの分身達は
体をすり抜け、やがて視界から消滅する。
「こんなもんは、
エンデルーンで経験済みなんだよ!」
悟空は折れたはずの弐式で
フェノメノンの手首を突き、
笛を弾き飛ばすのであった。
「やりましたね……」
ホムンクルスは両者が構えたまま動かない
奇妙な状況の中、悟空に声援を送り続けた。
分身したフェノメノンも壊れた如意棒も、
音による鼓膜から脳への刺激によって
引き起こした幻である。
「……よくぞ音秘術を見破った。
お前は完全なる悟りを会得したのだ。
これであらゆる幻術に惑わされる事はない。
グシオンの空間移動術をも見えるはずだ」
「俺様に足りてなかったのは、
あるがままを見る力か……」
悟空が笛を拾いフェノメノンに手渡す。
これまで、悟りを得るための気付きを
玄奘法師にかわり、与え続けていた事に、
心からの感謝を表した。
そして新たなる力に開眼し、
目の前の霧が晴れたような
心持ちであたりを見回すと、
直後、屋敷の外で爆炎が弾け、
組織の要員が慌ただしく
カリオストロの元へ
駈け込んで来る。
「総帥。
アモンの軍勢が攻めて来ました」
「……なるほど。
ドラクル卿の超魔力に気付き、
この場所も見つかってしまったか」
カリオストロが、修行部屋から出てきた
イートニャンと悟空に頼んだぞと目配せをする。
「後は、あたし達に任せなさい☆」
「しっかり、リベンジしてやるぜ」




