卒業試験 -結集-
森林から僅かに顔を
出した丘陵地帯。
ここに今回この無謀な卒業試験を
企画したドラクルと野生児ユティが、
死闘を繰り広げていた。
「ふぅぅぅぅぅ……
悔しいけど教官には敵わないなぁ……」
「余の斬撃を受け、
なおも立つとは見事だユティ。
今、終わらせてやる」
賞賛をあらんかぎり込めた感嘆と共に、
深い失望を滲ませドラクルが最後の一撃を
体力の消耗しきったユティに叩き込もうとする。
その様子を木の上から
狙い定めていたホムンクルスが息を呑む。
相手はどんなに強かろうとただ一人。
否、これから、たった7人で、
あの鉄壁の城を攻略しようとしている。
「フンっ————」
ホムンクルスのロングボウの
一撃をドラクルは音で見破り、
長剣の一撃で薙ぎ払う。
「甘いなホムンクルス……
そこからでは距離が遠すぎる」
弓に気をとられた隙に、
今度は左右から挟み込むように、
沙悟浄のジャベリン、八百の
投げナイフが放たれる。
ドラクルはロングボウの
一撃目を弾いたその勢いで、
振り向きざまに二撃目、三撃目の攻撃を、
横一文字に剣を回転させ弾く。
遠くからの狙撃では
矢の速度も失速、
飛び道具の専用ではない
ジャベリンやナイフにおいては、
至近距離から投げないとまず
ドラクルに当てるのは難しい。
しかし、これが当てる事を
目的としてないとしたら————
「教官殿、覚悟ッ!」
遠距離からの攻撃で気を引き付けた隙に
干将莫邪の兄妹が森から飛び出す。
「ほう、囲まれたか」
姿を現した二人の姿に驚くでもなく
ドラクルが素早く剣を構え直すと、
真正面から瀕死のユティが斧を
ブーメランのように投げつける。
が、それも次のドラクルの一撃で
弾かれ、干将莫邪に蛇行切りを
仕掛けようとしたその時————
『雌雄の拳』による
攻防一体の陣形が完成する。
「「行くぞ!」」
がら空きになったドラクルの
軸足にまずは莫邪が足払いをきめる。
いかに達人であろうとも
巨大な両手剣を振るい続けるには、
下半身の大きな踏ん張りがなくては
思うように扱えない。
蛇行切りで大股での
足さばきになった隙を
莫邪は見逃さなかった。
「よくやった妹ッ」
下半身のバランスを崩した瞬間、
今度は干将が背後からドラクルの
上半身を羽交い絞めにして拘束する。
ユティの投げた斧や
ホムンクルス達の飛び道具が
兄妹にこの陣形を発動させ
ドラクルに肉薄させるための
陽動だと本人が気づいた瞬間、
「これがオイラの渾身の一撃だっ!」
最後の伏兵、猪八戒が草むらから飛び出し、
ポールアックスでドラクルに飛び掛かる。
「ぬんッ!」
干将を体術で莫邪に向かって投げ飛ばし、
両手剣を正面に構えなおすも、猪八戒の
捨て身の一撃によって力で押される。
そして二歩、三歩と後ずさると、
ドラクルのツヴァイハンダーを
叩き落す事に成功するのであった。
「ありゃ、ユティの力でも
破れなかったのに!?」
「やっぱ、クラス一の
馬鹿力はオメェだったかw」
ほとんどの能力において
士官候補生たちを上回る教官であったが、
ここに来て腕力は猪八戒が
僅かに上回っていた。
火事場の馬鹿力という格言を、
体現した猪八戒の暴れっぷりに
他の士官候補生も驚きを隠せずにいる。
「訓練の時は女の子相手だしね。
つい、手加減しちまったんだ」
猪八戒自身も最後の最後で、
自分の怪力を最大限に活かせた事に
照れ隠しのような苦笑いを浮かべてみせる。
「……そうか、予想以上に
余も体力を消耗していたらしい。
最も腕力に秀でた貴様が伏兵で
現れるとは、これが狙いであったか」
ドラクルが剣を拾わずに
降参の意志表示を示す。
「よし、以上をもって
卒業試験を終わるとしよう」
「……教官、それは、
どういう事でしょうか?」
冷静さを保ったホムンクルスが
ドラクルに問いかける。
「わからぬのか。
余の意図を見破った、
貴様ら全員合格だという事だ」
「じゃあ、一人しか
合格できないって言うのは……」
八百がおずおずと問いかけると、
ドラクルは笑顔で答える。
「絶望的な状況下でも同期として
結束し合えるか試したまでよ。
余としてはここに居る全員を、
最精鋭の親衛隊に推薦するつもりだ」
「やったー!」
猪八戒が雄たけびで体を震わせる。
ドラクルも満足のいく結果に浸りつつ、
辺りを見回し意外そうな面持ちで表情を曇らせる。
「……ところで悟空と、
ターヒルはどうした?」
その何気ない言葉が
一同を固まらせる。
「てっきり貴様らを一つに
まとめ上げ、ここに来るものと
余は思っていたのだが……」
「「「「「「「忘れてた!!」」」」」」」
7人全員が同時に絶叫する。
皆ドラクル打倒に集中するあまり、
それ以外の事柄をありえないほどに
失念していたのであった。




