ツヴァイハンダー
翌朝————
その日もドラクルは毎朝の日課である
両手剣の素振りをするため、
日の出と共に一人で校庭に来ていた。
しかし、珍しく先客がいる事に
少しばかり嬉しそうに口元を緩ませる。
その人物は片手にリンゴを持ち
数週間前とは見違えた表情で、
ドラクルを待っていたのであった。
「……ユティと何やら特訓を
している事は知っておったが、
まさか余と勝負をするためか?」
精悍な顔立ちになった悟空が
リンゴを片手でグシャリと握りつぶすと
槍を構えはじめる。
武の天才と呼べるレベルの生徒は
何人か見てきたドラクルであったが、
わずか数週間の間に、ここまで人は
変われるものか————
ドラクル自身が、悟空のみなぎる力、
その成長ぶりに目を見張る。
「目的は、教官殿では御座いません。
自分の実力を確かめるため、
お時間を頂戴いたしたく存じます」
悟空らしからぬ堅苦しい挨拶の中に、
まるでドラクルでさえも通過点に
過ぎぬとばかりの不遜な言葉が、
ドラクルの癪にさわった。
「確かめるだと?
つけ上がるな、確かめるのは余の方だ」
その瞳は、前の世界と同じ
紅蓮に染まっている。
おそらく怒りで
充血しているのであろう。
ドラクルがツヴァイハンダーを構え、
悟空を強者としての闘気で威圧する。
いくら魔法が使えないとはいえ、
その実力はこの世界においても
屈指の強さといえる。
互いに武器の
リーチは同じ長さ。
悟空は物おじせず、
静かな眼差しと共に
ドラクルへ槍の穂先を向け
一直線の槍の突きで先手をとる。
それをドラクルは左足を引きながら
ツヴァイハンダーで打ち払うと、
悟空は右側に踏み出し
ドラクルの太刀筋から斜めに
回り込むよう頭部を目がけ二撃目を放つ。
「噴ッ!」
ドラクルが、悟空の攻撃を
斬りつけながら受け流す。
更に反撃のため剣を巻いて
側頭部に斬りかかると、
反射神経に勝る悟空が
とっさに上半身を引き、
ドラクルの刃をかわしてみせる。
刃無しの模擬用とはいえ、
重量級の剣による容赦のない一撃は、
まともに食らえば首の骨がへし折れる。
重い剣の風圧が、悟空の額に
貼り付く汗の玉を弾き飛ばす。
が、怯む事なく更に二歩、ドラクルの
間合いに素早く、力強く踏み込む。
そのまま悟空はドラクルのがら空き
となった脇へ渾身の力で突きを放つ。
————そこだッ!————
大振りの両手剣は
リーチと破壊力の代わりに
攻撃をした際に大きな隙が生じる。
その隙を悟空が恐れず間合いを
詰めたおかげでドラクルは、
やむなく体をよじり、肘と脇で
悟空の槍を止めてみせる。
「……見事だ悟空」
そのまま挟んだ槍をへし折り
反撃する事も出来たが、ドラクルは
剣を鞘に納め健闘を讃える。
「本当か、オッサン……
いや、失礼しました教官殿」
「畏まらずとも良い。
貴様に敬語などを使われても、
かえって嫌味に聞こえるからな」
この学園に来て初めて心の底から
打ち震えるような喜びを感じた
悟空はドラクルに謝意を表する。
ドラクルもまた教師として、
生徒の成長を見れた事に率直な
喜びを感じ、今だけは鬼教官の
仮面を外し優し気な眼差しを向ける。
「これだけは胸に刻んでおけ。
このエンデルーンを首席で卒業する気
があれば、次は真剣で相手をしてやろう」
自然と晴れやかに悟空の
口元から笑みがこぼれる。
ドラクルの実力は見通せないまでに
高いといえども、確実な一歩を
踏み出せた実感と共に悟空は
校舎へ走って行くのであった。
『○月×日曇り。
今日の晩飯:イズミル・キョフテ
(野菜と一緒に煮た挽き肉料理)
特訓のおかげで
間合いの取り方はつかめた。
相手の太刀筋だけじゃなく
足さばきにも気を配れば、
相手があのおっさんでも
簡単にヤラれる事はねぇ。
稽古に付き合ってくれた
ユティに感謝しないとな。
今夜は、よく眠れそうだ』




