医務室
仲間の説得に失敗してしまった事に、
悟空が気付いた時には手遅れであった。
切れ者のホムンクルスと八百であれば
気付いてくれると思っていたが、
かえって自身への疑いが
より強くなる結果となってしまう。
他に頼れる人物がいない悟空は、
フラフラと夕暮れ時に一人校舎を彷徨い、
ホムンクルスの言う通り
医務室の前まで来ていた。
「あら、悟空ちゃんじゃないの」
白衣にグルグル眼鏡、
もじゃもじゃ頭のアンニュイな
人物が脱力気味に悟空を出迎える。
「あんた……
姿は違うが、この独特な
雰囲気は超知ってるぞ……」
「そりゃ超知ってるでしょうよw
ケガしてここに超来てんだから」
白衣の先生がおかしそうに笑って見せる。
つられて悟空も照れ隠しのために
苦笑いを浮かべて頭をかいてみせる。
「そうか、お前の人間の姿が、
それだったんだな、イートニャン!」
「……イートにゃん?」
「あぁ、先生。
俺の話を聞いてくれるか」
悟空は気が付いたら
この学校にいた事、
それ以前の冒険の記憶などを
ヴァカに打ち明けた。
「ふーん……
あなたが猿で、あたしが猫ってか。
まったくもって夢しか見えてない現実ね。
そんな夢物語はもちろん賛同できないけど、
別の世界線から、この世界に迷い込んで来た
可能性も無いとは言えない」
「世界線?
そりゃどういう事だ」
「ここじゃない悟空ちゃんと、
ここじゃないあたしが存在する世界が
無数にあるって言ったら分かるかな」
「……なるほど。
天才は見えてる世界が違うな」
「あくまで可能性の話よ☆」
興味津々に聞き入っていた割には、
そっけない反応に戻るヴァカであった。
「そうだ、ターヒルの胸元にある赤い石。
あれはカブレラストーン、龍石だぜ」
「龍石?」
悟空は苛立ち気味に両手を
机に付けて身を乗り出す。
「石がなきゃタイムマシンは動かねぇ!
72柱を倒す旅も終わっちまうんだ!」
————タイムマシン。
そのキーワードに少しばかり関心を
示すようにヴァカは考えこむ。
『○月×日晴れ。
今日の晩飯:ミディエ・ドルマ
(ムール貝に米を詰めた料理)
ホムや八百の姉貴さえ
ターヒルでなく、この
俺様を疑っている。
ことが大きくなれば、
いずれ犯人は学校から
追放されるだろうな。
そしてイートニャン……
いやヴァカ先生には話を
聞いてもらえたものの、
面白がって、手のひらで
踊らされてる感じだぜ。
こりゃ、一人で解決
するしかねぇようだが、
どうやって、この運命を
変えるんだ?』
その後も、
学園での異変は続いた。
給食に異物が混入されていた事もあれば、
化学の授業中にビーカーから有毒な
煙が発生した事もあった。
みな表では口に出さないまでも、
悟空が犯人であるかのように
陰口が囁かられる。
気が付けば、あれほど懐いていた
舎弟の沙悟浄と猪八戒も、
ターヒルへの病的な敵意を露にする
悟空との距離を次第に取り始めていた————




