番長
『○月×日曇り。
今日の晩飯:バルック・エクメーイ
(鯖と野菜のパンサンド)
正直、日記なんて
書いてる場合じゃねぇんだが、
この世界ってのは夢や幻覚なのか?
じゃあ、なんで覚めないんだよ』
翌朝————
「兄貴、隣のクラスの奴から
カツアゲしたっすよw」
「兄貴、オイラ腹減ったんだなぁ」
「兄貴兄貴うるせぇっての!」
校舎に入って廊下に来るや
子分二人が言い寄って来るのが、
悟空の朝の様式美となってしまい、
早くもうんざりしかけている。
沙悟浄の手には生徒から奪ったと
思われるリンゴが握られていた。
「おい、悟空とその舎弟!」
「ちょっと面貸してもらうよ!」
突如として廊下に
穏やかでない男女の怒声が響く。
「オメェらは……」
「ワイのクラスのもんが、
おんどれのアホに随分と、
可愛がってくれたようじゃのう?」
がたいの良い男子生徒と、
スケ番風の女子生徒の姿を見た
悟空は何かを思い出しかける。
そして悟空達を凄んでみせた
ガラの悪い二人の姿を見るや、
周囲の生徒が野次馬となって騒ぎだす。
「……干将と莫邪だぜ」
「喧嘩で停学を喰らった奴らじゃん」
「ついに、戻って来たのか」
「エンデル―ンの兄妹番長、雌雄の拳だ!」
干将と莫邪。
その名を聞いて悟空は少し前に、
どこかで会った気がすると頭を
捻るもののこんな人物だったかと
首をかしげてみせる。
「今朝あっしがカツアゲした奴、
あんたらの舎弟だったんかー!?」
「そうだよテメェ。
潔く落とし前をつけな!」
急に狼狽えだす沙悟浄に
莫邪が断罪するように答える。
悟空はそんな舎弟の気も知れず、
兄妹番長の顔を交互に見まわし、
のんきにポンと手を叩いてみせる。
「おぉ、上海以来じゃねぇか!
お前らそんな口調だったか?」
「何を言っとんじゃい!?
ワイが謹慎してる最中、おんどれは、
やりたい放題してたそうやのぅ!」
「……俺様が?
お前こそ何を言ってんだw」
干将が問答無用と指を鳴らし、
拳を突き出して見せる。
「兄貴助けて!」
殺気だった兄妹の怒気に当てられ、
小心者の沙悟浄が顔を青くして、
悟空の後ろへ慌てて隠れようと背を向ける。
「おらっ、舎弟の仇、覚悟しな!」
莫邪が飛び掛かり、
沙悟浄の背中を足蹴にする。
更に、パンを食べてた
猪八戒まで巻きこまれ
干将にボコボコにされている。
「だなぁぁぁぁぁ」
「兄貴、見てないではやくぅ!」
「お前らが余計な事をするからだ」
一通り沙悟浄と猪八戒を
莫邪がこらしめるところを
悟空が他人事のように見ていた。
「……カス共が、これに懲りたら
カツアゲなんてすんじゃないよッ」
すると干将が悟空へと
向き直り拳を突き出す。
「さて、兄貴分のおんどれにも、
ホンマモンの根性を見せたる!」
「何で俺様が、てめぇの根性を
見ねぇといけねぇんだw」
厄介事を振り払うように
悟空も拳を構えるものの、
既にここまで派手に暴れた二人を、
ある人物が見逃す訳もなく————
「干将、莫邪!
今度は退学処分にされたいか!」
ボコボコにのされた沙悟浄の手から
転げ落ちたリンゴを拾ったドラクルが
片手でグシャリと握りつぶす。
「ヤバいよ兄者、教官だ」
「今日はこんぐらいにしたる!」
その怒声を聞くや、さしもの
荒れ狂う兄妹番長も逃げ出すのであった。
「なんつー怪力だよ……」
「貴様もあとで話を聞かせてもらうぞ」
干将らとの因縁の浅からぬ悟空に対しても
ドラクルは厳しく睨みを利かせる。
リンゴを片手で握り潰した、
その握力も80キロ以上はある。
単なるチンピラでしかない自分や
干将とは違う、重みと威厳を纏った
オーラには素直に屈服するより他にない。
「ところで、昨日は何をしておった!」
「す、すみません……」
「質問に答えろッ」
よくよく見るとドラクルの後ろに
ホムンクルスが小さく縮こまっていた。
ドラクルが怒っていたのは干将達の他に、
ホムンクルスが何かをしくじり、
それを責め立てている様子であった。
ドラクルや悟空が教室に入るや、
周囲の生徒が好奇の目で二人へと注がれる。
「馬鹿な兄妹の次は秀才のホムンクルスか」
「ホムの奴、何をやらかしたんすかね?」
「給食のパンをつまみ食いしたとか……」
「そりゃオメェだ」
いつもより厳しい様子のドラクルと、
ホムンクルスの失態について
それぞれ感想を漏らす。
「……そうか。
火薬の件は余が調べる」
大事になる事を恐れたのか、
ドラクルは小さく囁くと、難しい顔で
教室からそそくさと出て行ってしまった。
午前の授業は音楽室での授業であった。
音楽室へ向かう途中、八百が
ホムンクルスに声を掛ける。
「おはようホム君。
さっきは何であんなに
教官殿に怒られてたの?」
「ええ、実は……
武器庫から少量の火薬袋が
紛失していましてねぇ。
昨日は僕が管理当番だったんです。
これまでテストの成績で
築き上げた評価もパァですよ……」
「マジで?
それヤバくない?
てかウザくない?」
ホムンクルスが
意気消沈したようにため息を吐く。
武器庫から火薬が
無くなったというのは
たしかに穏やかではない。
ドラクルが朝礼を無視して状況の
確認を急いだのも無理かといえる。
もっとも自分には関係のない事だと、
この時、悟空は二人の会話を
聞き流していた。




