百年戦争
――全部で、一、二、三……十六本!――
足の跳躍力だけでなく
動体視力までが異様なほど
強化されている事を体感する。
意識も恐ろしく濃く
研ぎ澄まされている。
これもイートニャンに
なった力の一つなのか。
「ぎゃ!」
突然の黒猫の乱入に
ジャンヌは驚き、
悲鳴と共に梯子を手放し、
その場にへたり込んでしまった。
イートニャンは
ジャンヌを庇うように
城壁へと仁王立ちになり、
無意識のうちに両手に召喚した
まるでファミレスにあるような
銀のナイフとフォークを両手に構え
矢の雨を素早く弾き返す。
「あれは!」
同時に八百が声を上げ
八百の指し示す砦の胸壁から
恐ろしく巨大な長弓の一部と
緑色のマントがはみ出ている。
奴こそが、この矢の雨を降らせた
射手であるとイートニャンは
本能的に悟る。
「とりゃ☆」
勢いよく全身の筋肉を振り絞り、
独楽のように回転しながら
銀のフォークをジャベリン替わりに投げる。
空間を引き裂くような鋭い音を立て、
フォークはそのまま砦の胸壁に突き刺さり
緑衣の射手のマントの一部を引きちぎる。
イートニャンの怪力に恐れを抱いたのか、
すんでのところで砦の中へと姿を
くらましたのであった。
「逃がした……」
もう少し、落ち着いて
狙いを定めればと悔やんだが、
自身の能力の高さに高揚した
今のイートニャンでは、まだ
コントロールが難しいのであった。
「ううっ、一体何が……
あなた達は……」
あまりの出来事に、
そのままへたり込んでいた
ジャンヌが呻くように声を出すも
甲冑の胸部に矢が突き刺さっている。
矢をすべて防げた訳ではない事に
今更気が付きイートニャンは歯噛みする。
「誰か、医者だ早くしろ!」
ジャンヌの後ろに控えていた
フランス兵がわめき立てる。
受傷したジャンヌを前にし、
それまで士気の高かった
フランス軍の兵士たちに
動揺が広がっている。
が、それに加えて異様な容貌の
イートニャンの存在が、
さらなる混乱を招いていた。
「なんじゃありゃ!?」
「黒猫の悪魔だ……」
「おい、なんかナイフとフォークを持ってるぞ!」
当然と言えば当然の反応だが、
このまま味方につけるべき人達まで
敵対するわけにはいかない。
八百は、そんなイートニャンに
神らしく振舞うよう耳打ちする。
歴史録によればジャンヌは神の声を
聞いて行動しているのであると。
「おほん、いいですか~。
あたしはチミ達を直接助けるため
天から舞い降りたのです。
何せフランスを救うよう言葉を
届けたのも、このあたしなのです」
我ながら冷や汗ものである。
もとは麗しの博士とはいえ、
こんな姿で堂々と神を騙るとは。
これが自分でない誰かであれば、
指をさして大爆笑したであろう。
そんな想いを膨らませる
イートニャンをよそに
八百もそして周囲のフランス兵も
固唾を飲んでジャンヌの
反応を見守っていた。
「皆のもの落ち着きなさい。
この者らは我を救いし主である。
何人もフランスのために戦わんと
する者は恐れてはいけません」
「し、しかし……」
「おい、なんかナイフとフォークを持ってるぞ!」
「えっ、こんな胡散臭そうなのに!?」
ジャンヌの言葉とは言え案の定、
配下のフランス兵たちは動揺していた。
イートニャンも流石に、もう少し
現実的な自己紹介をするべきだったかと
後悔し始めた所でジャンヌが声を張り上げる。
「そこの兵よ、たとえ臭かろうとも
私を助けた神が悪魔なハズはございません」
「あんもぉ、ひどい (/ω\)」