表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イートニャン  作者: 坂本龍馬♀
―プロローグ―
10/273

デモンイーター



「いや、何でいるのw」



「何でって、そりゃ

留守番してたからでしょ」



パンとコーヒーで

朝食をとっている八百。


それを見て案の定、

嫌な予感が的中する。


元の時代に戻った瞬間、

元の人間の姿に戻る――


そんな三流ドラマのような、

ご都合主義なタイミングで

戻るのであろうか?


過去の歴史に干渉すると、

この現代にまで影響がでるのか?


自分のぶんの朝食はあるのか?

そんな懸念けねんは、たくさんあった。



「協会に問合わせてみたんですが、

どうやら72匹の悪魔シードたちが

消え去った形跡は見られませんね」



「うそん!?

さっき犯人に辞めさせたけどッ」



「ま、その世界の私は救われ、

別の未来へ分岐したかもしれませんが、


この世界わたしが救われて

ないのでは意味がありませんよ。

これも1つの実験結果ですね博士」



「あんもぉ☆」



そもそも、白衣の博士が

最初に実験をはじめた日が

飛鳥時代かは定かではない。


やるとしても本来、一番はじまりを

潰さないといけないのである。


しかし、やったところで

結局は現代に影響も無い。

つまりは土台、無理な話であった。



「って事は、あたし、

ずっとこの姿のまんま!?

イヤアアアアアっひゃひゃひゃヒャw」



この姿で一生を過ごす。

こんな罰ゲームがあるだろうか。


ヴァカの悲劇など知った事か

とばかりにヤレヤレと

八百がため息を漏らす。



「博士、私が呪いをかけたのは、

何も復讐だけではないんですよ……」



「どゆこと?

140文字ぐらいで説明して」



「その姿は私の組織に

伝わる神のようなもの。


つまり西洋と東洋の

テクノロジーを集結した、

唯一バケモノを完全に

食らいつくせる秘術なんです。


なにせ敵は無限に再生する

不死身の健康体ですからね。


あとは誰がその呪いをうけるか。

当然、部外者にこの使命を

託すわけにはいかない。


博士には責任をもって、

ご自身がまかれた72の種、

いえ、72の健康悪魔どもを一生を

かけて喰らい尽くしていただきます」



「……チミねぇ。

この格好で今から健康なバケモノを探しに、

世界中をウロウロしろっちゅーの!?


だいち税関とかどうやって抜けるのよ。

FBIに捕まって、それこそ人体実験とか、

されちゃうに決まってるでしょうが」



こんな姿にされた挙句、

今度は悪魔シードの討伐とくる。


この度し難い不条理にキレながらも、

対する八百は朝食のコーヒーを

静かにすするのであった。



「ま、これでも食べて少し

落ち着いたらどうですか博士」



「何よこれ、パサパサやん。

ちゃんと麦茶をパンに吹きかけてから

オーブンで焼きなさいよ!

麦の効果でパンがフワフワに

なるんだから☆」



と科学的な効果を言いながらも

食パンをかじりながら少し冷静さを

取り戻すヴァカ。


すかさずコーヒーで飲み干す事も忘れない。

なぜなら肌のシミを防ぎ美容効果の高い

クロロゲン酸が豊富に含まれているからである。


と、いっても、すでにシミどころか

全身真っ黒になってしまったが……


怒りのテンションが収まった

頃合いをみて八百が、

ある提案を投げかける。



「いいですか博士、だからこそですよ、

だからこそ、あのマシンを使うんです」



「ぇ?」



いくら交通機関が、もろもろの

事情で使えないとはいえ、

『タイムマシンを使う』は

意味不明である。


すると自信に満ちた

表情の八百がカップの

コーヒーをいっきに飲みほす。



「いま現代には、

悪魔シードの手下が増えすぎて、

もう手がつけられない状態なの。


しかも奴らは地中や海中深くに

『魔界都市』を作り滅多に

地上へ出てこない。


だから過去に行き、増える前の

地上で暴れている72体を1匹ずつ

確実に叩くしかないんですよ」



「……だけど、過去を変えても

現代に影響無かったじゃん!?」



パンをかじりながら再び

イライラするヴァカに対し、


八百は、おもむろに懐に隠してある

黒い小さな辞典を出し、


これが目に入らぬか、

とばかりに眼前に突き出す。



「なーに?

その臭そうな、ウゼェ古本は」



「これは、『ゴエティア』といって

協会がバケモノを監視するために

呪術で作った書物ですよ。


ここに書いてある悪魔シード

全て倒す事によって強力な呪術が発動し、


あらゆる時空を超越して、

その手下ごと封印できるんです」



関心ありげにヴァカがのぞきこむと、

書には72体の悪魔シードの名前が記されている。


八百の話によると協会は昔、

バケモノを実験で作り出し、

書を使って間接的に手下ごと

抹消させた実績があるらしい。


もしタイムマシンさえあれば、

そして不死身の悪魔シード

倒せる存在をそこに連れていければ……


この応用で現代の届かぬ位置にいる

悪魔シードを間接的に全て消せるのである。


つまりは、科学で出来ない事は

魔術でカバーしましょう!

という事であろう。


分岐した別の平行世界パラレルワールド

複数あったとしても、これを

達成させた世界はまだ存在していない。


もしあるなら今この世界の八百も、

とっくに消えているはずである。


どの時空の誰も成し遂げていない

『それ』をやろうというのだ――



「にゃるほど。

これがあたしがまいた

シードリストってわけ」



「組織はこれを

ソロモン72柱と呼んでいるわ。

あなた、偽名ソロモンで種を

まこうとしてたでしょ?」



「ギクりんこ☆」



八百に核心をつかれると、

ふと、とある記憶がよみがえる。


ヴァカ博士がこの実験を

現代でしなかった理由。


それは、いくらシードとはいえ、

ある意味パンドラの箱のようなもの。


失敗やトラブルがおこった時、

国連に目をつけられたら面倒な事になる。


しかし行く先々の過去の世界ならば、

何があっても問題はないであろう。


その時代の人間ではないのだから。


とはいえ、それでも万が一、

未来に語り継がれるような

ヘマをしたらそれも困る。


よし、偽名を

つかっちゃおう☆


……てきな考えを

めぐらしていた。


そして、ソロモンの偽名を使ったのは、

おそらく先ほど過去で会った、

あの白衣の博士であろう。


まぁ結局自分は、なーんにも

ヤってないんだけども!


全ては未遂で終わった挙句、

こんな体にされたのは、


そいつじゃなく、

このあたしなんだから!


……と、怒りにガクガク、

そしてプルプルと震えながら

ヴァカは我にかえる。



「あのねぇ、もう龍石が無いわ。

過去に行きたくても行けないじゃん!」



【龍石-カブレラストーン-】

100年に1度あるかないかの

時間でしか作られない貴重な石。

時空を超えるために必要な

超強力な燃料でもある――



「あぁ、その問題なら……」



今からそれを探す大冒険が、

はじまるというのだろうか。


しかし、この姿で行ける

場所は、あろうはずもない。


すると八百が赤い石を

ポケットから出す。



「何でチミが!?」



「ま、私は長生きしてますから。

協会もこの得体のしれない石を

根気よく回収していたそうですよ。


ただ、この石は何か運命に

選ばれた者の前にしか現れない、

とも言われているの。


巡り巡って、博士にも、

そして私の手にもコレが

回ってきたというのは、

()()()()()なんでしょうね」



どうやら龍石カブレラストーン

八百の所属する表向きは考古学財団、

その裏は悪魔を研究する魔術組織が

管理している物であった。



「……過去にいったら私の組織が、

あなたが作った悪魔シードと戦っているから、

倒す報酬として龍石も確保できるかも」



そして、また次の世界へ

悪魔シードを倒しにワープする。


組織の激闘と監視の歴史録から

最もその72柱の1匹1匹が

地上に暴れて出現していたであろう、

おおまかな時期を選別し、

その時代へ行くのである。



「かぁぁぁぁ、めんどくさっ!

どこから行くとか、いつ終わるとか、

スケジュールの図表ガントチャートはあるの?」



「んなもん無いですよ。

ただし、今度からは一緒に

私も行きますからね!?


デモンイーターの力には

翻訳の能力が備わっているから

言葉には不便しないと思うけど」



「翻訳機能が備わってるなら、

八百ちゃんの国連英検特A級とか

必要ないじゃーん☆」



「でも色んな国へ行くわけだから

組織の協力とかは姿の変わらない、

この私がいれば顔パスで済むはず」



いくら過去の世界とはいえ、

ヴァカの姿は悪魔そのもの。


色々と情報収集をするための、

その時代の人間たちとの

コミュニケーションや

宿泊や交通手段など、

イートニャン一人では厳しい。



「でも、あたしのこの姿は

八百ちゃんの組織では

神みたいなものなんでしょー?」



悪魔喰デモンイーター

組織のシンボルマークになってますね」



「……なら、

デモンイーターの

フリでもしないとね。


にしても名前がエグイわ!

かといってソロモンの偽名は、

もう使いたくないし」



「じゃあ可愛く、

イートニャンっていうのはどう!?」


挿絵(By みてみん)


はたから見れば中学生の

少女と黒い獣の二人旅。


こうして歴史の記録に残らない、

一つの神話が静かに開戦するのであった――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ