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コバルト落選作

降りそそぐ善意の受け皿を持たない

作者: 三行

 河の中のほうが涼しくてよっぽど過ごしやすいだろうと思うのに、夏の長期休暇はアスファルトの敷き詰められた都会で過ごすというのが、近年、若い河童達にとってはトレンドになっているらしい。たしかに、八月に入ってから街中で河童の姿を見かけることが増えた気がするし、先日、熱中症になりかけていた私を救おうとしてくれたのも、バカンス中の河童だった。

 その日の私は、少し油断していたのだ。真夏とはいえ曇り空だし、目的地は自宅から徒歩五分のコンビニ。それに前の晩には浴びるほどビールを飲んだから、水分だって足りているはず。そう考えて、寝起きのまま水も飲まず帽子もかぶらず外に出て、結果、熱中症になりかけた。

(辛い。コップ一杯程度でもいい、水が飲みたい)

 絶体絶命のピンチ、というほどではないが、かなりまいっていたのはたしかだ。頭痛と目眩に耐えかねて、道路の端で蹲っていたそのとき、声をかけてきてくれたのはアロハシャツを羽織った河童だった。声をかけてくれたといっても、日本語話者ではないその河童の口から出てきたのは「ぐわ?」の一言。それでも、河童が私を心配してくれているのは伝わってきたし、河童のほうも、私の「み、水を」という言葉が通じずとも、その様子から具合が悪いこと、水を求めていることが伝わったのだろう。大丈夫だ、というように頷いてみせると、背負っていたリュックの中から、ペットボトルを取り出し、蓋を開け、そしてその中身を、私の頭にかけてきた。人間は頭が乾いても具合が悪くなるわけではない、ということを、その河童は知らなかったらしい。地蔵のように道端で頭から水をかけられている男性、というのは、見る人になんらかの事件性を感じさせたのだろう。数分後、近隣住民からの通報で駆けつけてきた警官により、私は無事、病院へと運ばれた。


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