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5話

 そんな理由で俺が出前をすることになったのか。

 要は客の信頼得るために厨房スタッフもまずはウェイター1回やれって事だろ?

 なんて面倒な仕事だよ?

 俺に接客やれってか。

 親父の野郎、マジで酷いアルバイト紹介したな。

 恨んでやるぜ。

 佐波山店長が中華包丁を持ったまま話を続ける。


「それがこの佐波山中華店のルールアルよ。嫌なら武雄君はどんなに料理が旨くてもクビだアル」


 クビは困るので従うことにした。

 本心はかなり嫌だけど。


「店長は一度決めたことは何が何でも通す性格だぜ。あきらめて出前に行くんだぜ」


 渋谷さんが聞いていたのか厨房から声が聞こえた。

 佐波山店長の声が他の人より大きいので会話の内容は筒抜けだったようだ。

 お客にも聞こえていると思うと恥ずかしい。


「この岡持ちを持つアル」


 佐波山店長から大きめの銀色の箱を渡された。


「何ですかこれ?」


「出前のメニューを入れる岡持ちアルよ。見た事ないアルか?」


「俺出前とかとったことないんで解りませんでした。岡持ちっていうんですね、この箱」


 俺は自分の足の膝まである高さの箱を見てそう言った。

 幅は俺の両足くらいの広さがある。

 これが岡持ちか、ふーん。

 でもちょっと運ぶにはデカいんじゃないのか?

「早くメニューを入れるアル」


「わかりました」


 佐波山店長に言われた通り、テーブルに置いてある北京ダッグを岡持ちに入れる。

 岡持ちの中にメニューの北京ダッグのメニューを入れると短く薄い板を下に下げて箱の中にしまう。


「それを持ってこっちに来るアル」


 いつの間にか裏口まで移動していた佐波山店長を岡持ち片手に追いかける。

 結構重いぞ、この岡持ち。

 裏口を出ると異様な物を見た。

 高い建物で囲っている中で黒い渦をゆっくりと時計のように回転させている人が1人入りそうな穴に俺は呆然としていた。


「な、なんですかこれは?」


 俺はその異様な空間に疑問の言葉を佐波山店長に投げかけた。


「異世界に行ける穴アルよ」


 佐波山店長の出した答えに俺はわけがわからなかった。

 異世界に行ける穴?

 何だそりゃ?


「何しているアル。早くこの穴に入るアル。出前場所はもう設定しているアルよ」


 佐波山店長が穴の隣にあるキーボードが付いているパソコンみたいな機械を指さす。

 出前場所の設定?

 なんだそれは?

 こっちは今目の前にある黒い渦の穴だけでも驚いて理解不能なのに今度は何だよ?

 その機械について詳しく説明してくれ。


「あの、異世界とか意味不明なこと言っていますけど、異世界に行ける穴とかその設定とか言ってた機械が解らないのですが」


「それは後で説明するアル。今はこの穴に入ってジェネレーションタワーの650階にいるウェイン・アースランドさんに北京ダッグを届けるアル」


 後で説明するって…それにジェネなんとかのウェインさんって誰だよ。

 聞いたことないぞ、そんな住所と客の名前、ウェインってなんかアメリカ人みたいな名前だし。

 俺の疑問などお構いなしに佐波山店長は話を続ける。


「とにかくこの穴に入れば異世界に行けて出前のメニューを客に渡せるアル。今はそれだけを考えてこの穴に入るアル」


 この穴に入って俺帰ってこれるのかな?

 なんかヤバそうだし、第一こんな非現実的な現象が起きている穴が異世界とかに繋がっているのが信じられない。

 一体誰が作ったんだろう?

 というかこれって夢じゃなくて現実に起きている事なんだよな?

 だとしたら凄い発見を俺は見ているかもしれない。

 でも穴に入るのは未知のエリアみたいで怖い。


「やっぱり武雄はここで悩んでたみたいだぜ」


 裏口のドアを開けて渋谷さんがやってきた。


「店長、後は俺が説明しとくんで厨房に戻って欲しいんだぜ。俺は今休憩時間に入ったから、この時間で武雄を異世界の穴に向かわせるようにするから安心するんだぜ」


 渋谷さんがタバコをふかしながら佐波山店長にそう話した。


「そうアルか。わかったアル。では、あとは渋谷君に任せるアル」


 佐波山店長はドアを開けて厨房に戻っていった。

 渋谷さんがタバコをふかして、俺を見る。

 俺は今自分が置かれている状況がまったく理解不能なので質問した。


「渋谷さん、これは一体何がどうなっているんですか?」


 渋谷さんがタバコを袋状の携帯灰皿に押し込んだ後にこう言った。


「穴のヒントは魔法使いが作ったんだぜ」


 何を言っているんだこの人は?

 危ない物でもやっているのだろうか?

 ここのスタッフ変だよ。

 というかこの異世界の穴とかいうのが信じられない。

 非現実的な光景だ。

 魔法使いが作った穴?

 それについて聞いてみるか。


「魔法使い? 童話の話なんてしてませんよ」


「穴は確かに魔法使いが作ったと佐波山店長は言ってたぜ」


 やっぱりこの人達ヤバい薬でもやっているのかな?

 魔法使いなんて言われてもそんなご都合主義的な存在がこの世にいるわけないじゃないか。

 でもファンタジーの格好をしたお客しかいないし、もしかしたら本当かも…いやいややっぱり変だ。

 もしかしてからかわれているのかな?


「真面目に答えてくださいよ」


「大真面目だぜ。俺も実際にこの穴が魔法使いの力によって出来た瞬間を見たんだぜ」


「渋谷さんタバコ以外にヤバいものやってないですよね?」


 渋谷さんがタバコを吸って吐いて煙を作る。


「やれやれ……そういう質問が来ると思ってたぜ。物は試しだ佐波山店長が怒る前に穴に入った方が良いんだぜ。そこ客も来る穴だからそこにいると邪魔になるんだぜ」


 渋谷さんはそういって俺を穴の方に押す。

 凄い力なので渋谷さんに押されて穴に入れられそうになる。


「何するんですか? そもそも魔法使いだけじゃ穴の説得力がないですよ?」


「青山元子だぜ」


「は?」


 誰だ?


「魔法使いの名前だぜ。穴が出来る前は客が少ないから佐波山店長が困っている時にいろんな時空や異次元を旅していた魔法使い青山元子がこの異世界に繋がる穴を作ったんだぜ」


「そんな話信じられますか?」


 絶対に信じられない。

 そう思った。


「信じるようになるんだぜ。この異世界に繋がる穴に入れば嫌でも信じる気になるんだぜ」


 そう言う声が聞こえた時には俺は岡持ちと一緒に穴の中に入っていった。

 真っ黒な世界に吸い込まれて、気がつけば見た事もないレンガの目立つ薄暗い空間にいた。

 空は天井になっていて周りはレンガで出来た壁と迷路のような道があるだけだった。

 後ろを向くとさっきの穴があった。


「い、異世界に着いたってことか?」


 俺はほっぺをつねったり、周りのレンガで出来た壁を押してみた。

 レンガで出来た壁は硬い感触があってハリボテではないことがわかった。

 どうやら佐波山店長達に騙されている訳でもなさそうだ。

 本当に異世界なのか?

 まさか本当にそんなことが……だいたい決定的な証拠がない。

 異世界の穴を見ていると中から人が出てきた。

 金髪の髪で解った。

 渋谷さんだ。


「驚いただろ? ここがジェネレーションタワーっていう異世界のダンジョンだぜ」


 決定的な証拠はないが、ここはどうやら異世界らしい。


「うわぁ! 本当に異世界なんですよね」


「本当だぜ。ウェインさんはこのあたりにいるから探して出前の北京ダッグ届けるんだぜ」


「そうだコレを入れておいてやるんだぜ」


 渋谷さんはそう言うと手のひら指図のメモ用紙を俺のウェイター服の胸ポケットに押し込んだ。


「ちょ、何するんですか!」


「武雄これは俺が穴に入った後に読むんだぜ。じゃあ頑張れだぜ」


 そういうと渋谷さんは穴の方に入っていった。

 あの穴から戻れるのか。

 とりあえずウェインさんって人を探して、この薄暗い空間を抜けよう。

 ダンジョンって言ったっけ?

 ジェネなんとかってダンジョン。まるでゲームに出てきそうな場所だ。

 渋谷さんが俺の胸ポケットに入れた紙を出した。

 内容はこう書かれていた。

 お客様の信用第一で出前やるんだぜ。


「何が信用第一だよ」


 それって上辺だけで要は金でしょ?

 全く何が信用第一だよ。

 俺は紙切れを捨てると岡持ちを持ってダンジョンを歩いた。


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