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再会

この春、親の転勤で季節外れの2年の5月に転校することになった。子供の頃に住んでいた場所だ。子供の頃住んでいたので、まったく縁がないというのは嘘になるが、小さい頃の思い出にはあまり記憶がない。仲の良い幼馴染は少しだけいたが、今では疎遠である。時間というのは残酷であり、人は記憶というのを、忘れる生き物である。急に転校したことも原因をしていると思うが、忘れたものは仕方ない。これから思い出というのは作ればいい話だ。

寒い春明けの暑させいだろうか、6月に入ろうというのに桜が狂い咲きをしている。

この初夏には早い暑さと、春の訪れの咲く花に小さなギャップを感じ、これは俺の門出を祝っているのかなと小さく微笑む。

桜並木地道の長い坂を登る。綺麗に咲く桜とは裏腹に、俺の心の中は、不安半分、楽しみ半分という心境だ。


「よし、バラ色の学校生活を送るぞ!楽しい生活を送るぞ!」

そう小さく意気込み、不安を吹き飛ばそうと気合を入れる。

こういう時は言葉に何度も口に出しておけば、なんとかなるというのが、人間らしい。まぁ、幼馴染の受け売りだが、使えるもの信じるというのが、俺の流儀である。

初めての学校の門を勢いよくくぐる。

新しい春風が吹く。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お前ら静かに!今日は突然だが転校生を紹介するぞ」


今の時期に?かわいい子!?といったお馴染みの野次に毎度あしらう男の先生。先生ってお仕事は大変だと思う。

入っていいぞと声をかけてもらい戸を開ける。


「今日からここのクラスになる立花たちばな 奏太そうたです。どうぞ、よろしくお願いします」


初めて見るクラスメイトに緊張し、少し強張った表情で笑顔を作り、ぺこりと頭を下げる。


「あと、立花は親御さんの都合で転校してきたみたいだぞ。とにかくみんな仲良くな」


質問攻めにならないように先生が代わりに代弁してくれた。ありがたい、先生グッジョブと心の中で親指を立てる。

空いている席は1番後ろの席にというおきまりの展開で席につく。

ただ、以前はどこに住んでいたのかなど質問攻めは思ったより少なかった。どうやら季節外れの転校生はおれだけではなく隣のクラスにもきていたようだ。噂に聞くとかなりのイケメンらしい。それは当然そっちにいくだろう。凡人の数少ないアドバンテージまでイケメンは持って行くなと思う。まぁ、ともあれ無事にこの学校でも生活にできそうだと安心した。平穏な日々も悪くない。いや、いかんいかん。ここで弱気になっても何もない。バラ色の生活というのはこれからなのである。


教科書もないので、ただぼーとしてうける授業も終わり、昼の合図を告げるチャイムがなる。待ちに待ったお昼休みということもあり、周りは急に騒がしくなる。お昼を食べるにしろ、学食とかあるのか確認しないいといけない。あたふた中、俺に話かける小柄な少年がいた。


「立花くん、弁当とか持ってきてる?もし、よかったら、食堂まで案内するよ」

「丁度困ってたんだ、お願いしようかな。名前は、えーと、、、」

「ごめん、名前がまだだったね。僕は遠山とうやま れんだよ。よろしく。」


少年は小さく笑みを浮かべ、俺にも気さくに話しかけくれる。これはかなり好青年みたいだ。差し伸べられる腕に握手しする。こういうこは今後の生活で必要だ。是非仲良くしたい。


「遠山くんね。うん、よろしく。」

「苗字とかあまり好きじゃないから蓮でいいよ」

「蓮くんね。俺も奏太で大丈夫だ。食堂まで案内をお願いしようかな」

「じゃあ、いこうか。」


食堂に着くと思っていたより、綺麗な場所で少し驚く。


「驚くでしょ?うちの食堂は最近新しくなって綺麗になったんだよ。」

少し得意げに話す蓮。蓮にも少しかわいいところがあるんだなと少し微笑む。


「ちなみにメニューはいくつかあるけど、オススメはボリュームが唐揚げ定食ね。」

「確かにみんな食べてるよな。」


蓮はこの唐揚げ定食に迷いなく注文する。蓮だけではなく、あたりを見渡すと唐揚げばかり頼む人は多い。やはり、ボリュームがある唐揚げは男性陣には人気のようだ。

その中で、唐揚げより俺の目を惹くメニューがあった。


「おっ、ハンバーグ定食もあるじゃん。俺はこれするよ。」

「奏太、お目が高いね。ハンバーグも美味しくて人気のメニューだよ。ただ…」

「ただ…?」


人気のメニューなのに、何かあるのか?ふと疑問に思う。周りでハンバーグ定食を食べてる人はいない。そうこう考えているうちに「へい、お待ち」食堂のおばちゃんが、その噂のハンバーグ定食がでできた。

見た目だけだと、ハンバーグにチーズが覆いかぶさっているので、かなり美味しそうに見える。とろけるチーズというのは、食欲をそそる。食べてみても美味しい。ただ、中にもチーズが溢れんばかりに入っている。美味しいのだが、チーズが外にも中にもと味がくどい。


「ははは、みんなその反応するよ」

「蓮、そういうならもっとはやくいって欲しいよ」


俺の顔を見て、腹に手を当てて笑う蓮に俺は頭に手を当て、自然とため息がでる。

ただ、この味も慣れてくるとチーズが好きな俺にとってはスルメの味な気がする。チーズイントラップのハンバーグもたまにはいいだろうと自己完結する。程よく満腹になったお腹をさする。

ふと、外を見ると、天気がいい時は気持ちの良さそうなテラスが見える。この広さは学校レベルじゃないよねと少し笑いがでる。

テラスから食事の終えた女子生徒たちが出てくる。いい天気にテラスでご飯を食べられたら、さぞかし楽しいんだろうなと思う。そう、あれこそが、俺の考えているバラ色の高校生活なのだ。


「なあ、蓮。今度の昼はテラスで昼飯にしようぜ」

ただ、ただの楽しく昼食をしたいと誰しも思うだろう。決して、可愛い子がいるからとか邪な気持ちがあるからというわけではない。確かに可愛い子も多いが、そういうのに流されたわけではないのだ。俺はそう紳士だからな。あわよくばがあれば、お近づきにはなりたいというのも事実だ。


「それもいいんだけど、テラスは文化祭のミス・ミスターコンテストの景品なんだよね」

「そうなんだ、残念」


なるほど、だから可愛い子などが含め、美形が多いのは納得。ただ、テラスを景品にするとは文化祭の運営をするやつを恨むぞ。俺は心の中でそう決めた。我らが一般ピーポーには手が届かないということか、無念だと肩を落とす。俺があまりにもがかっりしていたようなので、蓮は言葉を付け加える。


「ただ、優先ってだけだし、空いてたら使ってもいいみたいだよ。まぁ、気まずくて使う人はいないみたいだけどね。」

蓮、それは慰めにもなっていないぞ。結局は勝ち組の席か…残念。


慣れないことをしていると時間があっという間に過ぎていくもので、気づいたら放課後である。

帰る準備をしている最中に蓮から隣のクラスの人が呼んでいるよと声がかかる。教室の入り口には少女が立っていた。整った顔立ちに、華奢な体つき。華があるというのはこのことで、思わず目を奪われる。蓮によると去年のミスコン優勝の人らしい。そんな人がうちのクラスにきたので、視線が集まる。

これはチャンスなのでは?この絶好な機会を逃さぬように瞬時に紳士モードに入る。

説明しよう紳士モードとは、女の子にモテるために考えた勝負モードとのことだ。特に深い意味はない。


「俺になにか用なのかな?」

「ええ、話があるの」


これはまさか、愛の告白!?転校初日で、俺にも春が来たのか!紳士モードが効いているぞ!

クラス中の注目が更に集まる。奏太は一つ声のトーンを下げて、自分にできる渋い声で話すように意識する。


「ここだと、注目が集まる。どこか人のいないところにいこうか」

「奏太、なにを勘違いしているのかわからないのだけど、あなたの決め顔とその話し方は気持ち悪いわ」


あれ、話が違うぞと奏太の額が冷や汗で濡れる。

まさか、無敵の紳士モードが効かないだと!?いや問題はそこじゃない。いや、問題なのだけど、彼女は俺に気持ち悪いといった?それよりも俺のことを奏太と呼んだ?初対面の人にフランクで話すアメリカ人ではなければ、まず、名前を呼ぶことはない。そして、記憶違いではなければ、彼女とは面識はないはずだ。考えてもわからないことなので、奏太は疑問のそのまま投げかけて見ることにした。


「えーと、君とは面識があったっけ…?」

「私のことも忘れているの?あそこまで密接な仲だったのに…奏太って、薄情ものね」


その一言クラスには大混乱パニック!?密接な仲!?大人の関係、意外に立花くんはチャラいだのあらぬことを言われる。

ただ、俺はそんな記憶はないぞ!そんな羨ましい記憶があるなら、忘れるわけがない。忘れているのならば、今すぐ思い出せ、立花奏太!


「小鳥遊さんは奏太とどうな関係だったの?」

そんなところに蓮から助け舟が出される。ナイスだ、蓮。俺自身も気になることをよくぞ聞いてくれた

。こんな美人は知らないぞ。教えてくれ。教えてください。お願いしますから!

うん?小鳥遊、そうそうない珍しい苗字、人を弄ぶこの話し方…ひょっちとして、まさか…


「まさか、由紀!小鳥遊たかなし 由紀ゆきか?」

「ええ、そうよ。暑さで幼馴染を忘れるという記憶回路まではいってなかったようね。」

「ああ、忘れるわけがないさ。ただ、髪も伸びていたし、わからなかったけど、久しぶりだな。いつぶりだっけな?」

「ええ、久しぶりだけれど、貴方は相変わらずね。確か中学上がる前からだから、4年ぶりだと思うわ。そういう貴方はなにも変わっていないからすぐにわかったわ。頭も悪いそうな顔もそのままのようだしね」

刺があるいいかたではあるが、幼馴染とわかったところで、クラスは一旦落ち着く。そういうことか納得したようだ。あらぬ噂は広まる前にとどまったので安心だ。これで、俺の安住は保たれたのである;。


「先ほどの質問の答えだけど、奏太とは幼馴染よ。今の所はね」

「ちょ、なにをいって・・・」

更に意味深な言葉にクラスが再度どよめく。

今のところってどういうこと!?やっぱりそういう関係なのひそひそ話が出てくる。

転校初日からこいつはかき回されてるなんて、ついてない。

そうだ、思い出した。由紀は昔からこういうやつだった。こいつと関わるといつも面倒ごとに巻き込まれる。ロクな覚えないので、苦い思い出ばかりが、フラッシュバックする。

果たして、これから俺はバラ色の学校生活はやっていけるのだろうか…

幼馴染との学園スタートです。さて、どう物語は進むのでしょうか

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