倒れる
給食を食べていると、再び目眩がした。
食欲もなく、いつもは残さず食べるのに半分近く残っていた。
梨華がちょっと心配そうに聞いてくる。
「なんか顔色よくないよ。大丈夫?熱あるんじゃない?」
「ううん…大丈夫だから。でも…ちょっとだけ体調悪いかも。風邪かな…」
「無理しないで早退したら?」
「そこまでじゃないよ、大丈夫!」
こういうところは意外としっかりしている綾斗。
小学校の頃から余程のことがなければ休んだり早退したことはない。
「病は気からっていうしね」
綾斗が笑顔で言うと、「でも無理はしないでね」と梨華に言われた。
ところが、体調悪化するばかりだった。
午後の英語の授業中、綾斗は今まで経験したことがないだるさに襲われていた。
身体全身が重く、目まいと頭痛、吐き気までする。
なんだこれ…僕死んじゃうのかな…
最初は気の持ちようと耐えていたが、それも限界だった。
体調が悪化する一方なので、思考は完全に悪いほうへ傾いていた。
まわりは誰も気づかず、授業は淡々と行われている。
そんなのは綾斗の耳には一切入らない。
全身からは汗がびっしょりと出ていて、座っているのもきつい状態になっていた。
「うっ…うう…」
意識が朦朧としてきて、全身の力が抜けていく。
「綾斗くん、大丈夫?」
隣の梨華が気づいたときにはすでに遅かった。
力なく、椅子から落下して床に倒れこむ。
「綾斗くん!」
梨華が叫ぶと同時に、まわりのみんなが綾斗を見ていた。
ざわつき始めるなか、英語教師の時田佐知子が慌てて駆け寄ってきた。
「岡崎君、大丈夫?しっかりして!」
それでも綾斗は動けず、唸るので精一杯だった。
「とりあえず保健室に…」
佐知子はオロオロしながら綾斗を立たせようとするが、綾斗は立つことすらできなかった。
佐知子は今年で50歳の小柄な女性、とても綾斗を抱えて保健室まで連れていく力はない。
そこへ勇がやってくる。
「俺が連れていく」
勇は軽々と綾斗を抱えて、保健室へ走り出した。
「岡崎、しっかりしろよ!」
朦朧が朦朧としていて、もやは勇の声すら耳に届いていなかった。
やっぱり…僕、死ぬのかな…
ここで綾斗の意識は途絶えた。