嬉しいはずなのに…
時間の関係で、このあと光樹と別れて今は一人で帰っている。
彼氏…できたんだ。
思い返しただけで嬉恥ずかしくなる。
もう光樹しか見ない、そう心に誓ってバスから降りて家に向かっていたら
後ろから突然話しかけられた。
「岡崎?」
振り向くと、今一番会いたくない人物が立っていた。
なんでこのタイミングで…
「星野くん…」
「久しぶりだな。ずいぶんかわいい恰好してたから一瞬わかんなかったよ」
勇と会うのは梨華と3人で行ったボーリング以来だ。
「そ、そうかな…星野くんは何してるの?」
「見てわかんない?走ってた」
勇は確かにジャージを着て、この寒さだというのに汗をかいていた。
「クリスマスイブなのに走ってるの?」
「日課だから。それに俺には無縁だし」
そういって、勇がガハハと豪快に笑っていた。
梨華ちゃんとは何もないのかな…
綾音はあの日以降、梨華に勇の話をしていないので
2人がどういう関係になっているのか知らない。
「岡崎こそオシャレして、デートだろ?」
「ち、違うよ!友達と遊んできただけ…」
なぜ嘘をついてしまったのか、自分でもわからない。
自分自身がとても嫌になる。
「あ、そう。じゃあ俺まだ走るから。またみんなで遊ぼうな」
勇は手を挙げて走っていってしまった。
みんなで…なんだ。
綾音は気づいてしまった。
光樹と付き合い、光樹しか見ないと決めたのに、やっぱり好きなのは勇だった。
「ただいま…」
「おかえり、ギリギリ6時半ね。ケーキあるよ」
「ううん、今日はいらない…」
玄関で和子と話した後、そのまま自分の部屋にこもってうずくまった。
ドアが開く音がする。
足音が軽いので誰だかわかったが、話す気分になれないので無視をした。
「お姉ちゃん…何かあったの?」
「お願い、今日は放っておいて」
愛梨は何も答えずに部屋を出て行った。
なんなんだろう、わたし…
少しすると、ラインが届いた音がした。
見なくても相手は誰だかわかっている。
けど、これは無視するわけにはいかない。
(無事に着いたかな?今日はありがとう!本当に嬉しかったよ。これからもよろしくね)
なんて返せばいいんだろう…
考えながら文字を打つ。
光樹くんを傷つけたらいけない…
(うん、さっき着いたよ。こちらこそお願いします)
このあと、かわいいスタンプを送信して再びうずくまった。
わたしは星野くんが好きなのに光樹くんと付き合った…最低だ。




