運動音痴
今日は大嫌いな体育の授業がある。
しかも真冬なのに校庭でサッカーときたから綾斗は憂鬱以外何もない。
ところが他の男子たちは盛り上がっている。
「俺、絶対にシュート決めるぜ」
「俺も俺も」
なぜあんなに楽しそうにしているんだろう?
綾斗には理解できなかった。
寒いので上下ジャージで校庭に出る。
それでも寒いのに半袖短パンの男子が半分近くいるのには呆れるしかなかった。
早く終わらないかな…。
準備運動をしたあと、最初にパスなどで身体ならし。
綾斗は勇と組んでパスをしていた。
「よし、こい!」
力のないボールが勇の前に転がっていく。
「岡崎、もっと思いっきり蹴れよ」
そういいながら返ってきたボールは早くて威力があり、止めるのが精いっぱいで
すぐに蹴り返せない。
「星野くん、これパスじゃなくてシュートだよ」
「何言ってんだ、パスだって。ほら早く」
勇は楽しそうだ。
それに比べ、綾斗はつまらなそう。
両極端な2人だが、仲がいいのでなんとか成り立っていた。
このあとはもっと最悪な試合になる。
ほとんどの男子が楽しそうに試合をしているなか、
綾斗は端のほうで目立たないようにしていた。
3対3になり、残り時間もあとわずか。
あと少しで体育が終わる。
時計を見ながらそんなことを考えてたら、
なぜか綾斗の前にボールが転がってきてしまった。
え?え??
戸惑っているところで、勇の大きな声が聞こえてきた。
「岡崎!シュートだ!!」
キーパーも飛び出していたので、ゴールはがら空き。
相手チームも「しまった」と悔しがっている。
誰もがゴールを確信しているなか、綾斗は慌ててボールを蹴った。
それを見て「あーっ!」と叫ぶ男子たち。
普通に真っすぐ蹴ればいいだけだったのに、綾斗の蹴ったボールはまったくの枠外に
力なく転がっていった。
そのボールがコートの外へ出たと同時に笛が鳴り、体育の授業は終了した。
「マジかよ岡崎~」悔しがってはいるが、大半の男子は笑顔だった。
所詮は体育、夢中にはなるが、責めたりはしない。
大失態を犯した綾斗も少しホッとした。
教室へ向かって歩いていたら、勇が話しかけてくる。
「惜しかったなぁ、あそこでシュートが決まってればな」
「ごめんね、外しちゃって…だって急にきたから慌てちゃったんだよ」
「まあ、仕方ないな」
そういって勇が笑っていると、そこへ別の男子たちが嫌味を言ってくる。
「あれはねーよな、せっかく勝てたのによ」
「ホントだよな、岡崎が同じチームってだけでマイナス1なのによ」
こういうことを言われるから体育が嫌いなんだ。
運動が苦手なものは仕方ないじゃないか。
少し落ち込んでいると、勇が反論してくれた。
「おい、そういう言い方ないだろ。岡崎だって頑張ったじゃないか。誰だって苦手な分野はあるんだし」
そういうと嫌味を言った男子たちがぶつぶつ言いながらいなくなった。
「ありがとう、星野くん」
「あんま気にするなよ。もし気にするなら…柔道やろうぜ。そうすればああいうことなんて言われなくなるしよ」
「うん、遠慮しとく」
それを聞いて勇は「ったく」と呟いてから笑っていた。
そのとき、綾斗は急に立ちくらみがしてふら付いてしまった。
倒れそうになった綾斗を勇がとっさに支える。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん…ありがとう。なんか目まいがして」
「保健室行ったほうがいいんじゃないか?」
「大丈夫、もう何ともないから…」
「ならいいけどさ」
そう、本当に今はなんともない。
でも何か嫌な予感がしていた。