昔に戻ったみたいな
7月末、綾音はついに生理になった。
少しだけ胸も大きくなったので、それに合わせ、ブラもスポーツブラから
ノンワイヤーのブラにステップアップした。
ちょっとだけ大人になった気分だ。
そんなとき、ケータイにラインがきたので見てみると梨華からだった。
(明日暇?沙季子と遊ぶから一緒に遊ぼうよ)
遊ぶと即答したい。
でもどこで遊ぶ?地元の駅だと同級生に出くわす可能性もある。
綾音が一人で歩いている分にはそんな目立たないが、梨華と沙季子と3人だと
同級生が見れば少なくとも梨華と沙季子はわかる。
そうなるとあと一人は?あれ?岡崎に似てない?ってなるのではないか。
(遊びたいけど…)
これだけ送ると、綾音が言いたいことを察したのか、こう返してきた。
(だったら綾音ちゃんちで遊ぼうよ!)
これなら問題ない、理想的だ!
綾音はすぐに返信した。
(うん、待ってるよ!)
明日が待ち遠しいな♪
翌日の午後、着いたよと連絡がきたので綾音は玄関のドアを開けた。
そこには梨華と沙季子が立っている。
「綾音ちゃん、久しぶり」
久々に見た沙季子の顔に綾音は嬉しくなる。
しかもちゃんと綾音と呼んでくれた。
「久しぶりだね…沙季子ちゃん。どうぞ、上がって」
2人を部屋に上げると、掛けてある制服に目がいった。
「こんなかわいい制服なの??」
「うん、すごく気に入ってるんだ」
そんな話をしながら3人で座っている。
懐かしいような気持ちもするが、それが自分の部屋というので新鮮な気持ちもある。
たどたどしくなるのかも…綾音は少しそんな予感もしていたが、
梨華はもちろん、沙季子も昔と変わらず話してくる。
すぐにあの頃に戻ったような感じになって盛り上がった。
「そういえば知ってる?素敵なパラダイス、実写で映画化するんだって」
「ホントに?いつやるの??」
「今度の冬っていってたかな。観たいよね」
「見たいみたい、3人で行こうよ!」
梨華や沙季子と映画に行くなんて想像もできなかった。
でも今はそれができる。
それを喜んでいたらドアが開く音がした。
「先輩!」
そこに現れたのは愛梨だった。
「愛梨どうしたの?」
「先輩たち来てるっていうから、わたしも一緒に遊ぼうと思って」
「ちょっと、今は3人で遊んでるんだから邪魔しないでよ」
「いいじゃん!わたしだって先輩たちと仲がいいんだから」
「愛梨は部活行けば会えるでしょ!わたしはなかなか会えないんだから」
2人の言い合いが始まってしまい、梨華が慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっと…落ち着いてよ」
「だってお姉ちゃんが」
「だって愛梨が」
この様子を見て今度は沙季子が笑いだした。
その笑い声を聞いて2人とも止まる。
「あはははは、仲いいんだね2人とも。それにしても一緒にいるとホントそっくり!」
さりげなく沙季子が話題をすり替えたので、言い合いはここで終わった。
「ね、一瞬見間違えたのわかるでしょ!」
そこで沙季子が提案。
「綾音ちゃん髪切れば愛梨ちゃんと同じになるから、そしたら愛梨ちゃんのふりして普通に遊びに行けるんじゃない?」
それは綾音も考えた。
でも無理だった。
「髪伸ばしたいんだもん」
綾音は今、髪を伸ばしている。
そのほうがいろんなアレンジができるからだ。
とりあえず今の目標はくるりんぱをすることだ。
「じゃあ愛梨ちゃんが伸ばせば?」
「わたしもショート気に入ってるから無理です!」
顔はそっくりでも中身は意外と正反対な2人だった。
もうこの話はおしまい。
綾音は転校してしまったので、前の学校のことが知りたかった。
「ところで学校どう?」
「特に変わってないよ。あ、でもね、山根と金沢さんが先月から付き合ってる!」
「えー、ホントに?」
山根も金沢も仲はよくない。
それでも知っている人間が付き合いだしたというのは盛り上がる。
特にこのメンバーは恋愛ドラマや恋愛漫画が好きなので、この手の話は大好きだ。
ただ、こういう話で盛り上がると必ず出てくる質問がある。
「綾音ちゃんは好きな人いないの?」
沙季子が聞くので素直に答える。
「いないよ、ホントに」
そう答えると愛梨が言う。
「そうなんですよ、お姉ちゃん昔からいつもいないって言うんです」
「いないものはいないんだから仕方ないでしょ」
この話を聞いて、梨華は一口ジュースを飲んだ。
本当にいないんだろうなと思った。
なぜかというと、それは綾音の恋愛対象だ。
元から気持ちが女の子だったんだから、男子が好きなのが普通だ。
おそらく沙季子はそう思って聞いたんだと思う。
その考えは間違っていないだろう。
でもそのことを自覚しているかどうかは別だ。
ここからは予想でしかないが、心が女の子でも、男として生きてきた。
しかも心が女の子だったとわかったのも最近だ。
綾音は笑顔で沙季子たちと話している。
前まで男だったのが信じられないくらい女の子だ。
男子が好きな気持ちと自分が男という現実で、無意識に誰にも恋をしなかった。
これが梨華の考えだった。
「梨華ちゃん?」
いつの間にか名前を呼ばれていて慌てて返事をする。
「え、なに??」
「だから、梨華ちゃんは誰が好きかって話」
そういう話になっていたので驚いた。
いなくはない、気になる男子はいる。
でも沙季子もいないと言ったので、梨華もいないと言っておくことにした。
「わたしもいないよ」
「じゃあいるのは愛梨だけだね」
綾音がいうと愛梨が慌てだす。
「ちょっと、なんで言うの!」
「え、愛梨ちゃん誰が好きなの??」
興味は一気に愛梨になる。
結局はみんな恋愛話が大好きなのだ。
4人はこんな感じでずっとはしゃいでいた。




