気になる子
季節は6月、梅雨のジメジメした時期に突入した。
綾音は咲弥、七海、そして文芸部のみんな、友達もでき、
新しい学校にもだいぶ馴染んでいた。
プライベートでは、ついにケータイを買ってもらい、
学校の友達と帰ってからもやり取りをするようになった。
また、もともとかわいい服や小物が好きだったせいか、服などにも興味を持ち、
おとなしい性格ながらもファッション雑誌などを見る今どきの女の子になりつつあった。
放課後になり、掃除当番の綾音と咲弥は教室の掃除をしていた。
「なんでよりによって木曜日なんだろう…」
咲弥がぶつくさ言いながらモップをかけている。
というのも、掃除当番は毎日名前の順で2名ずつと決まっていたが、
木曜日はモップ掛けもしなければいけなく、今日がたまたまそれに当たってしまったのだ。
「しょうがないよ、さっさと終わらせちゃおう」
「ホント真面目だよね、岡崎さんって」
「だってやらなきゃいけないんだもん」
「はいはい」
そういって咲弥も真面目にモップ掛けを始めた。
バケツの水が汚れてきたので、綾音は水の交換のために流しへ向かった。
「よいしょっ」
バケツを持ち上げ、中身を流してから新しい水を溜め、再びバケツを持ち上げたときだった。
すぐ近くから走ってくる音が聞こえてくる。
振り向くと目の前に走ってきた女の子がいてぶつかって尻餅をついてしまった。
その弾みで、綾音はバケツの水を被ってしまい、制服がビショビショになった。
「いったぁ…え?」
ぶつかった女の子は濡れてる綾音を見て慌てていた。
「ご、ごめんなさい!どうしよう…部活に遅れちゃうって急いでて…」
女の子はうろたえていた。
最初はすごくムッとした綾音もこの姿を見て、怒りが収まってしまった。
悪気があったわけじゃないし謝ってるから…
「だ、大丈夫だから…」
「でも制服濡れちゃって…本当にごめんなさい」
女の子は涙目になっていた。
「干せば部活終わることには乾くと思うから…ね」
「けど…」
そこへ「どうしたの?」と咲弥が駆けつけてくる。
「ちょっとぶつかっちゃって…本当に大丈夫だから部活に行って」
そういうと「ごめんなさい」と深々と頭を下げ、女の子は部活に向かっていった。
「岡崎さん大丈夫なの?」
「うん、今は暑いし干せば乾くよ」
そういって体操着に着替え、制服を窓際に干してから掃除を再開した。
「ああいうの許しちゃう岡崎さんってすごいよね」
「だって向こうも悪気なかったし…」
「そうだけどさぁ…でも澤村さんもあんな風にうろたえるんだって少しビックリしちゃった」
「澤村さん?」
「あ、岡崎さんは知らないよね。A組の澤村さん、チアリーディング部なんだけど、かわいくてスタイルもよくて有名なんだよ」
「へー、そうなんだ…」
うろたえている顔しか見ていないのでかわいいという印象はなかった。
でもなぜか綾音は澤村という女の子が気になっていた。




