学校
鏡を見て、もう一度制服姿をチェックする。
うん、どこもおかしくないよね?
「綾音、行くぞ」
「あ、うん!」
慌てて階段を下りていく。
玄関には義弘が待っていた。
「じゃあお父さん、よろしくね」
「ああ、といっても駅までだけどな」
「お父さん、行こう。行ってきます」
「気をつけてね」
綾音は義弘と一緒に家を出てバス停に向かった。
私立の学校なので、綾音はバスと電車を使って通うことになる。
その駅までが義弘と一緒なので、そこまでは一緒に行くことになっていた。
「なんかお父さんと一緒って斬新」
「そうだな、俺もまさか綾音と一緒にバスに乗ってこれから毎日駅まで行くとは思わなかったよ」
さすがの義弘も最近は綾音をもう女の子としか見なくなっていた。
そうなると今度は少し照れくさい気分になる。
そんな気持ちのままバスに乗り、15分ほどで駅に着いた。
「じゃあお父さんはこっちだから、気をつけていくんだぞ」
「はーい、じゃあね」
義弘に手を振ってからホームの階段を上がった。
ここからは一人だ。
段々緊張してくる。
うまくやれるかな…
家では明るいが、元々綾音はおとなしくて人見知りする性格だ。
いざ学校が近くなると楽しさよりも不安が押し寄せてくる。
ましてや女子校だ。
男子がいない学校というのは想像がつかない。
そんなことを考えているうちに、気が付けば学校がある駅を降りて歩いていた。
まわりには同じ制服を着た女の子たちがたくさん歩いている。
それを見て少しだけホッとした。
ここまでは一人だったので同じ学校の生徒がいるというだけで安心できるのだ。
10分ほど歩き、学校の校門をくぐる。
着いたら職員室に来るように吉田に言われていたので、職員室へ向かった。
そこで吉田を発見したので声をかけた。
「先生…」
「岡崎さん、おはよう」
「おはようございます…」
「緊張してるのかな?すぐに慣れるから安心して」
優しく笑顔で言ってくれたので、少しだけ緊張がほぐれた。
吉田に教えられた教室へ行く。
2年D組、ここが綾音のクラスだ。
そこの廊下側の一番後ろ、そこが綾音の席になる。
ドキドキしながら教室へ入り、席に腰を下ろした。
まわりを見ると3分の2くらい生徒が席に座っている。
中には会話をしている子たちもいるが、
同じクラスだったり違うクラスでも知り合いだったりしたんだろう。
新しいクラスというのに比較的仲が良さそうな雰囲気だ。
そこに溶け込めるのか、綾音は少し自信がなかった。
そこへ、前の席の子が振り向いて話しかけてきた。
「はじめまして…だよね?多分。わたし江口咲弥っていうの。よろしくね」
一瞬戸惑ったが、慌てて返事を返す。
「あ、わたしは岡崎…岡崎綾音です…よ、よろしくね」
「岡崎さんって前は何組だったの?わたしはAだけど」
返答に困ってしまった。
なにせ転校生だ。
ここは素直に話しておこう。
「あの…実は転校生なの。だから誰も知らなくて…」
すると咲弥は「へー」と言って綾音を見てきた。
「どうりで見たことない顔だなと思った。珍しいね、転校って」
「う、うん…そうだよね」
「じゃあわたしがこの学校で友達1号だ」
「え??」
いきなり友達と言われたので戸惑ってしまった。
「迷惑?」
「ううん!そんなことない、ありがとう」
照れながらも笑顔で返すと、咲弥もニコッとしてくれた。
そんなタイミングでチャイムが鳴り、吉田が教室に入ってきた。
気が付けば席には全員が座っている。
「皆さん、おはようございます」
するとみんなも「おはようございます」と返事をする。
女子しかいなから当たり前だが、男子の声が混じってないというのは
とても不思議な感じがした。
「D組の担任の吉田です。もう知ってるよって顔してるね」
そういってから吉田が笑うとみんなも笑っていた。
吉田は意外と明るい教師なのかもしれない。
「先に話をしておきますね。岡崎さん、ちょっと立ってくれる?」
「へ??」
いきなり名指しされたので戸惑いながら立ち上がった。
みんなが綾音を見ている。
こういう風に注目されるのは恥ずかしくて苦手だ。
「彼女は転校生なので、学校のことでわからないことが多いと思うのでいろいろ教えてあげてね」
そういわれ、思わずお辞儀をしてから席に座った。
恥ずかしかったが、とりあえずこれでクラス全員から転校生ということだけは
わかってもらえた。
このあと、体育館へ移動して始業式、
そしてホームルームで1日目はあっという間に終わった。
午後は入学式があるため、2、3年生は全員下校しなければいけないので、
綾音は咲弥と駅まで一緒に帰ることになった。
「岡崎さん、部活は考えてるの?」
「ううん、特にまだ…」
石原女子は全員なんかしらの部活に入らなければいけない。
だが、まだそこまで考える余裕はなかった。
「わたしさ、バレー部なんだけど一緒にやらない?」
咲弥は活発で運動神経が良さそうな女の子なので、バレー部と聞いてなるほどと思った。
「ごめん…わたし運動音痴で…」
「あはは、誘っていうのもなんだけど文化部って感じだもんね」
こういうタイプの子は今まで友達でいなかったので、ちょっと新鮮だ。
「いい部活が見つかるといいね」
「うん、ありがとう」
こんな話をしていたら、あっという間に駅へ着いてしまった。
「また明日ね」
「うん、バイバイ」
手を振って咲弥と別れ、綾音は家に向かった。
ひとまず友達もできたし…大丈夫かな。
新しい学校生活が楽しくなるのを期待しながら家路についた。




