当方ボーカル希望、ギターベースドラム求ムでもできる青春
僕、駿河トオルは「晴れて」大学生になった。
天気はあいにくの曇り空だった。
大学生活初日、僕は若干湿気のある空気を浴びながら大学構内を歩いている。
今日は新入生が大学から色々な説明を受けたり、書類を受け取ったりする日なのだ。
そんな退屈な行事・儀式だけど僕の心は跳ねていた。
なんたって大学と言ったら遊ぶところだ!
高い授業料を払っている両親には申し訳ないが、大学は遊び場なのだ。人生最後の夏休みなのだ。
大学の近くに住んでいる友達の家で徹夜で麻雀をしたり、講義をサボって海にいったり。
早くも不真面目な学生の頭になりながら僕は敷地をぶらぶらしている。
「トオルはサークルとか決めたのかぁ?」
隣にいるちょっと見た目がDQNっぽい男に話しかけられる。
こいつは沼田。
教室で説明を受けている時にたまたま隣の席だったから話しかけられた。
今日会ったばかりだというのにとてもフレンドリーなやつだ。でも不快ではなく彼はすぐに人と距離を詰められる人なのだろう。近接職みたいなものか。
今日は説明会だけではなく、新入生の歓迎を兼ねてサークルの紹介をしているのだ。だいたいどこの大学も同じようなことしているだろう。
「やっぱり音楽系に入ろうかなって。」
僕は沼田に答える。
「すまん・・・、もう一回言ってくれ。」
やっぱりなあ。
僕の地声はとっても低い。そのせいで聞き返されることもしばしば。声変わりして6年も経つと慣れっこだけど。
僕は意識して高めの声を出して答えた。
「音楽サークルならモテると思うんだ。」
沼田はにかっと笑って、
「お、やっぱそうだよなあ。俺は高校も軽音だったし、軽音サークルでギターとボーカルやってモテモテになってやるよ!」
と答えた。
沼田なら似合いそうだ。いわゆるロキノン系とかやってそうだ。
「お前、なんかやってたのか?」
「いや、実はなにもやってないんだ・・・。」
沼田と違って、たははといった感じで答える。
「まあ大学のサークルなんてお遊びだしよ。気楽に始めるってのもいいと思うぜ!」
そんな沼田の言葉に少し不安が薄らいだ。
中庭には特設でステージが作られており、マイクやスピーカーもセットされていた。
中庭では音楽系の勧誘が、校庭(大学にもあるんだ!)では運動系の勧誘をするらしい。
文学部みたいなのはたぶん教室でほそぼそやっているのだろう。肌寒い曇り空の今日なんかは少しは人が来るのかな?
「意外と本格的なステージだなあ」
僕はははあと感心する。沼田はそばのテントを見ながら、
「専属のPAまでいるぜ!やっぱ高校の軽音とはちげえなあ!」
とよくわかんないことを言っていた。たぶんすごいんだろう。
僕たち二人は適当にステージの前の客席に向かった。
やっぱり音楽系に入ろうとしている人は多いみたいだなあ。すごい人だかりだ。
適当にパンフレットを見ていると開演の時間になった。
司会らしき小太りの男二人がステージに上がり、小粋なトークで場を盛り上げている。
司会のボケ担当がマイクに向かって言う。
「でもでもこんなむっさい男の話なんてききたくないよねえ!?」
それに反応してギャラリーも「そうだそうだー!」、「ひっこめー!」(これは沼田だ)なんて悪ノリして返す。
いいよいいよ。大学生活っぽいよ!
「今年の新入生は生意気ばっかだな! でも確かにここはライブステージ! アウェーだしそろそろ交代しましょう!」
ツッコミが〆に入り始める。
「「それでは、新歓ライブ開催だ! まずは軽音サークルのステージで盛り上がれ!」」
ボケとツッコミが声をそろえて紹介してフェードアウトしていった。
そして爆竹と同時にステージに軽音サークルのトップバッターバンドが登場し、ライブが始まった。
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軽音、ジャズサークルの紹介が終わり、少しだけ休憩になった。
「軽音やっぱかっけえな! 俺は軽音に入って女の子を食いまくってやるぜ!」
なんて冗談っぽく沼田が言う。ほんとだろうな。
「でもジャズで大人の女性と知り合うのもいいと思うなあ。」
なんて僕も軽口をたたく。初めて聞いたけどジャズもかっこよかった。
経験者も少ないだろうしジャズってのもいいかもしれないな。
そんな感想を言い合っていたら、
ポツ---
ポツ---
と、少し水音がする。
「げっ! 雨が降ってきやがった!」
沼田は急いで校舎へ避難していく。
ステージ上の機材も雨にぬれてはまずいのだろう。スタッフたちが片付けていく。
「おーいトオルー! お前も早くこっちこいよー!」
沼田が僕を呼ぶ。パンフレットには吹奏楽とDJサークルが載っていたがこの天気では無理だろう。
機材もほとんど撤収されて、ステージだけががらんとしていた。
沼田に呼ばれた僕は急いで校舎で雨宿りをした。
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校舎で少し沼田や同じ新入生と話し、雨が止んだので解散となった。
僕は少しお腹を冷やしてしまい、大学のトイレで孤独な闘いをしてから帰ることにした。
トイレから出るとすっかり夕方だった。
だれも校舎に残っておらず、僕だけがここに生きている、みたいな。
そんな少し浮かれてしまうような風景だ。
なんとなく中庭に向かう。
ちょっとでもあのライブの余熱で暖まりたかったのかもしれない。
相変わらずだれもいない少し濡れたままのステージ。たぶん明日片付けられるのだろう。
僕はほんとに音楽系のサークルに入るのかな?
他人事のように思う。
声は低くてカラオケなんて大嫌いだ。
楽器もリコーダーや鍵盤ハーモニカを音楽の授業で触っただけ。
やっぱり無理なんじゃないかなと考えていると------。
ぷぃー
その鍵盤ハーモニカみたいな音がステージから聞こえた。
と思ったらステージに女の子五人が登ってきた。
「あれ? きみだけ?」
一番身長の高い女性が話しかけてきた。
さらに五人の中でいちばんおっ・・・。
いやいや、僕は久しぶりに女性に話しかけられて固まる。
「そりゃ中止になったらだれもいないのが普通ですよ部長。」
一番身長の低い軽装の女の子が代わりに答えてくれた。
なんかアニメに出てきそうな声をしている。
さっきの人部長ってことはなにかのサークル?
「でもせっかくいらっしゃったのですし、少しだけ歌っていきません?」
ホンワカした女性が提案する。
「じゃあこんなシチュにあったやつやろうよ!練習してないけど!」
スポーティな女の子がいたずらっぽく笑う。
僕はたまらずに声を出す。
「あ、あの! そもそもあなただちなんのサークルなんですか?」
外国人みたいな女の子が答える。
一歩近づき、大げさに手を振りながら、
「見てわかんない?」
「マイクはない」
「楽器もない」
「あるのは五人の体だけ!」
(少し小さくさっきのぷぃーという音がホンワカした子のほうから聞こえたのはナイショだ。)
「聞いてください! アカペラでいこう!」
雨が上がったら 裸足で駆けだそう
あの虹のたもとに
ほら はやる気持ち
メロディを重ねて一つの歌になる
あの虹を渡って
行こうよ 歌おう
アカペラで
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それが僕、駿河トオルがアカペラに出会った瞬間。
歌えないし楽器も弾けない僕が音楽を始めることになったんだ。
だって音が綺麗だから。
だって皆が楽しそうだから。
僕も人を音楽で感動させたくなったんだ。
断じて部長のご立派なスイカに釣られたわけじゃないぞ!
初めまして。
勢いのまま書きましたのでいろいろ至らないところがあると思います。
飛ばさずに拙文を読んでいただけたならそれだけでうれしいです。
感想あればもっとうれしいです。
次回
アカペラとはなにか!
トオルでもできるのか!
アカペラってモテるの?(重要)
について書けたらなと思います。
ありがとうございました。