夜明けの夢は真昼。
「やっぱり、風花さんだった。」
真昼さんが小首を傾げて、音を立てずにカーテンを潜ってくる。
金色の眼鏡、色素の薄いふわふわの髪の毛が、漏れる蛍光灯の光に一瞬透けて輝いた。
普段、真昼さんは夜子ちゃんって呼んでくれるけど、苗字にさん付け、は学校でだけ。
それが今は何故か余計にわたしをドキドキさせる。
「ねえ、なに読んでるの。」
私は教室に向かわず保健室に登校して、
こうして真昼さんが朝の職員会議から戻ってくるのをベッドに入って待ってた。
一応、しんどくて保健室に居る身なんだから、
サボり常習犯の他の男子生徒みたいに、堂々と部屋の真ん中で居座るなんてしない。
真昼さんは妖しげな微笑みを湛え
上半身を起こして文庫本を読んでいる布団越しの脚の上に、伸し掛かってくる。
私は喉がカラカラに乾いて、唾液をのみ込むのも辛いくらいで。
「ふーん、好い趣味。」
歌う様に耳元で囁かれたとき、心臓を止めてしまいそうだった。
甘い香水の香りが鼻に届く。
「解ってるんだよね、
ここには誰も居ないって。」
形の良い唇が少し開き、私は高揚した心をどうにか鎮める為に
目を瞑った。
いや、開いた。
――――目が、覚める。
これは、夢だった。
ついこの間、保健室で見てしまった真昼さんと、
どこの誰だかも解らない三年生の男子生徒とが繰り広げていた場面を、
かなりの脚色を加えて自分を主人公として日々妄想している夢物語が、本当に夢になったらしい。
私は悲しくて、恥ずかしくて、自己嫌悪に苛まれてしまい
勢いをつけて起き上がると、自分の頭を全力で上下左右に振るというバカみたいな行為を繰り返す。
もう、わすれてしまいたい。
こんな絶望を感じて、苦しんで、自分が醜く小さな怪物に思えるくらいなら、
全て忘れてしまいたかった。
「風花さん。」
「……夜子ちゃん。」
それでも真昼さんの独特な抑揚の声を頭の中を反響させて、やっぱり忘れるのは出来ない、と想う。
そうだ、今日は普通に学校へ行くつもりだったけど、少し保健室へ寄ってみよう。
こんな夢を見たのがバレてないかどうか、(絶対にありえないけど)確認しに行くのと、
こんな夢を見るような人間ではありませんよ、とアピールする良い機会だ。
(心の中で変なコト想像してばかりでごめんなさい、と言い訳に行くため)
私は真昼さんに凄く恋しているけど、あの人にはそれを絶対悟らせたくないから。
どうせ叶わないって解っている、だからせめて仲良しになりたい。
誰よりも真昼さんを知る理解者になりたい。
「優しい夜子ちゃんに、愛される友人は幸せだね。」
あの時言ったことを本当にしてあげる。
真昼さんを幸福に出来るなら、私はいくらでも愛するよ。