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***蝶々の粒子***  作者: 音羽
新世界の標的
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美野和 晴の言い分



晴ちゃんは、じゃあ行ってくる、と黒い集団に自ら飛び込んでいった。


「君たちー、撮ってるー? 」いつ何時、誰に対しても変わらない陽気で明るい空気を背負って近づいて行ける姿勢には心底感心する。

写真部の面子は五人いて、みんな学内の有名人の一人がヘラヘラ笑いながら向かってくる様に若干驚いているようだった。

私とキコは、植え込みの木陰に身体を潜めてその様子を観察する。

晴ちゃんの性格向上が目的だとは言え、これは活動の一環…(のはず)で

単独行動禁止が部内の掟だから、こうやって応援している他にない。



「僕にも見ーせーて。」


「あ、えーっと、良いですよ。」


「やったあ!!」


晴ちゃんはリーダー格の男の持つデジカメのモニターを覗かせてもらって、素直に目を輝かせている。


「へー、凄く良く撮れてる!!機材がいいのかな!」


「ははは…」


「――えー、そこは自分たちの腕だって言えよ!!!」


「ははは……」


「でもカッコイイ奴らばっか。

山岡君や柴咲の写真は無いの?」


「あー、実はまだ撮ってない、かな。オレは。

おい、お前らどうだ?」リーダーがわざとらしく周囲のメンバーに確認する。

グラウンドに張り付いて数日撮影していたと聞いていたけど全員、名乗りを上げなかった。


やっぱりか、と私とキコは顔を見合わせる。


その時、写真部の一人が晴ちゃんへ向けてシャッターを切った。

小気味いい機械音が二度、三度と鳴り、晴ちゃんがそちらへ目をやる。


「え、あ。ナニ。何してんの。」


「いやあ、美野和(みのわ)さん、結構人気あるから……」


一人が頭をかきかき、晴ちゃんへ近づいて、今撮ったばかりの写真を確認させる。


「ほんと、モデルが良いから。どこ切り取っても決まるよ。」


「僕があ?どこも良くないよ。

で、野球部の話だけど……」


晴ちゃんは誤魔化されたと思ったのか、話を軌道修正させようとするけど

どう切り出せばいいのか迷っているようだった。

キコが言うには単細胞。猪突猛進で生きてきた晴ちゃんはこういう交渉に弱い所がある。


するとリーダーが前に出てきて言った。


「さっき、監督と話していたでしょう、大方察しはつきますよ。

撮影中止の申し込みに来たという訳ですか。」


「なんだー、バレてんのか。」


晴ちゃんはアッサリ白状する。


「そうなんだよね、君たちがナイスガイばっか撮るの、監督気に入らないんだってー。

指導者的には実力ある奴撮って、やる気高めてほしいんだって。」


「そうですか、ねえ。

女子のファンが沢山出来れば、自然と華やぎますし、結果野球部全体が注目されて自ずと全員やる気が高まる。

その取っ掛かりを写真部で作ってあげてるんですよ。」


「だけど僕は、これは野球部の撮影なんだから、

実力ある奴を撮って欲しいんだけど!


それに、その理論はもっと個人個人が注目されて、

実力が把握できて、見た目やファッションにお金や時間を使える余裕があることも前提の、

プロの世界で通用する言い分だろ?


主にチーム単位でしか見られてない大所帯の高校野球の世界で、ルックスを重視させるのは非効率だ。

実力と人気の差が出て、チグハグな人間関係と揉め事を生むモトになる。


まあ、カッコよくて実力もあれば話はまた違ってくるよ。

でも、モッサイのが大半な奴らじゃ難しいか。」



晴ちゃんは余計なコメントをくっつけて、負けじと言い返すが、

冷静を保つリーダーは片手を上げてそれを制した。


「というか、そもそも勘違いされては困るんです。

僕たちは、一生懸命頑張る野球部をただ応援するために撮影してるんじゃないんですよ」


「どういう意味?」


「僕たち、運動部の写真を集めたCD-ROMを文化祭で校内販売する予定なんです。

その売上金で、新たな資材を購入する。学校の宣伝を兼ねるものだし、上にも許可は取ってある。

――だったら、わかるだろう。

誰が、どんな人間が必要とされているか。」



「解る。」



晴ちゃんはまたアッサリ白状した。

こういう所が素直で、本当に変わった性格をしていると思う。

一所懸命話をしていたが、まさかこんなところで白旗を上げるのかと私は歯噛みした。



「じゃあ、こうしよう。


ちゃんと全員平等にカッコよく撮影してくれたら、さっき褒めてくれたけど…

僕の写真、撮っていいよ。」



晴ちゃんはニッコリ笑う。

黒い集団が一気にどよめくのが解った。



「……弱い?やっぱり力不足かな。」



晴ちゃんは彼らの反応を勘違いしたらしく、普段なら滅多にしない困った表情を見せる。

私はもう、胸が苦しくてたまらなかった。


「わたしっ、私も手伝うよ。」


待っているのが居たたまれなくて、自然と足が前へ出て行くのを制止できない。


「三脚とか立てる役でも、差し入れでも、何でもお手伝いします!!」


ぺこりと頭を下げると、六人全員がオオオッ…と歓声を上げてくれる。

私が誰か、解っているんだろう、カメラの知識なんて微塵もないけど、

力になれるなら嬉しいことだった。

 権力者の身内という後ろ盾があれば、多少の無茶も許される事を期待するし、何より心強いだろう

――というのは非帰宅部で毎日を過ごしていると、嫌でも理解する。

私が仲間入りするのは、さぞかしオイシイに違いない。



「はいはい、それじゃあ私も参加します。」


キコも渋々、と言った感じで隣に並んでくれた。

天然の金髪がサラリと揺れる。

眉根を寄せてても、美しい横顔。

 前回写真部が出した小冊子にも"殿堂入り美女"としてデカデカと盗撮写真が掲載されていたほどだから、

皆、カメラに収めたいだろうと私は思う。



この二人がモデルなら、写真部の商売は大繁盛に違いない。





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