表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
***蝶々の粒子***  作者: 音羽
新世界の標的
3/33

少女トリオ-02

「ホラ、フジコ漫画でよくある、顔面にボールやパンチがめり込んで"ムギュウ"ってなってるやつ!!

ああいう事故があるかも!!」


「ああ、螺旋模様が描かれるやつですね」


「校門でも良いか!他校の番長が

"ここの裏番に用があるんじゃけえのう!"って乗り込んでくるかもしれないよねえ。」


「どうでしょう、番長が偶然広島弁である可能性は少なそうですが。」


「……でも中国地方出身ってのは妥協できないよ。ヨルはどう思う?」


晴ちゃんの顏が名前の通り晴れ晴れした表情になって色々語るのを、

隣で微妙にノリながらキコが不可思議な返答をする毎度おなじみの会話を聞いて、私はうんうん頷いていた。

こうやって黙っていても、仲間として認識される安心感は今までどこの仲良しグループにも入れて貰えなかった身としては本当に心地よかった。


 世間知らずで"浮世離れしている"とよく言われる私は、子どものころから同級生との妙な隔たりを感じていて、

何か言うと眉を顰められ、近寄ると黙られ、避けられたり、遠巻きに眺められることが多かった。

自分でも解っているのが何よりつらく、鏡の前で笑顔の練習だってしてみたけど、いざ実践という時に上手くいかなくて、よけい塞ぎ込んだり寡黙になってしまう悪循環を繰り返していた。


だから今みたいな環境は初めてで、嬉しい。




「では、まず先月お世話になった野球部の方へ行きましょうか。」


キコが提案する。


先月の中頃、私たちは"潜入入部"として野球部に約1カ月籍を置いて、

新入生と同じく球拾いをしたリ、用具の整理や応援の声出しに参加したのだ。


「僕、野球の細かいルールってイマイチ解んないんだよねえ」

サッカー一筋だった晴ちゃんが放った一言で、

突然巻き込まれることになった"サッカーもよくわからない"知識ゼロの私たちは最初こそ戸惑ったが、

今は"犠牲フライ"や"送りバント"について説明くらいは出来るようになったし、球種についても勉強できたから、

体育のソフトボールの授業でもちょっとは役に立てそうな、いい経験をさせて貰ったと思う。



「あーあ、誰かバットを振りかぶってチームメイトぶん殴らないかなー」


「とんだサイコ発言ですね。」


私たちが校舎から少し離れた野球部専用グラウンドに辿りついて、

フェンスの外から怪我人や病人がいないかと伺っているとやっぱり目を引くようで、

監督がバット片手に気付いて近づいてきた。


「オイコラ三馬鹿ガールズ!!レギュラー争いに敗れたからって復讐に来たのか!!」


「……逆に僕らが病院送りにされそうだね。」


「監督、先月はお世話になりました。どうも有難うございます。」


失礼な態度の晴ちゃんを無視して、キコが折り目正しく挨拶をする。

私も即座に頭を下げた。


「今日は、体操着じゃねーな…ってことは、マネージャの申し込みか!?」

監督は私に向かって手を差し出した。

入部届を出せ、というジェスチャーだ。

このやりとりは潜入入部の頃から何度も行われているテッパンのネタで(キコが教えてくれた単語)

私はその都度断っているが、絶対にめげない姿勢で行くつもりらしい。


「ちょっと!何度も言わせんなっての!!ヨルはウチの子だよ!!」


晴ちゃんが威勢よく言うと、監督は頭に手を置いて呟いた。


「……シケてんなー、じゃあ何でここへ来たんだよ。」


「人助け。」


晴ちゃんがニヤリと笑って答える。


「はぁあ?お前ら、相も変わらずヘンな真似してんなぁ。」


「変じゃないよ!

寧ろ逆だよね、僕、大学デビューに向けて他人に役立つ人間になろうと思って。」


そう言えばそんな事が発端だったと昼休みのことを思い返していると、

監督が突然笑い出して言った。


「今日は血の雨が降るから練習中止だな!」


「降らないよ!降ったとしても田畑を潤す恵みの雨だよ!!」


晴ちゃんが足を踏みながら怒っている。


「もう行こ行こ!」


「お騒がせして申し訳ありません」


「謝罪なんてイイから!!」

お辞儀をするキコの背中をバシリと叩いて晴ちゃんが急かす。


「夜子は置いて行ってくれよ。」


「しつっこいなあ!!」



「……まあ、待てよ。

困ることあるから。」


監督がフェンスをバットで軽く叩いて、去ろうとして後ろを向いた私たちを呼び止めると

髭を撫でながら少し考えた様子で言った。



「あいつら、追っ払ってくれや。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ