少女トリオ。
「昨日は学食、今日は何だあ~?」
授業後、学校を練り歩く私たちに用務員のオジサンが声をかけてくる。
「今日は、人助けだよ!!」
晴ちゃんが大きく片手を振って、元気に返す。
私たちは普段から変わったことばかりしているうえに、
見た目からして目立つらしく、周囲から
"個性爆弾""設定オーバー"と称されて他学年からも噂話の対象になっているので、
こういう気心知れた学校関係者に声をかけられて、いつの間にか雑用を任されるなんてことがよくある。
昨日は昼ごはんを抜いて、学食のメニューを全種類頼み、夜までかかってどれが一番美味しいか
グラフや表を作成して議論した。
近所に下宿が数件あって、放課後も残ってお勉強する生徒が存在する私立の学校だから出来ること。
そして、こういう暴挙が通るのは、コネっていうのも少なからずあると思う。
私の親はこの学校に多額の寄付をしている功績があって、理事長の親戚だから。
昨夜も、「全部ください」という注文に一瞬嫌な顔をした食堂のオバちゃんが、
一言文句を言ってやろうと「あのねぇ…」と顔を上げた瞬間に、私が誰の娘かを認識したらしく表情を変貌させ、
「あっらー、沢山食べるのね。」とワントーン上げたソプラノ声になったのを晴ちゃん達は見逃さなかった。
「驚異のビフォーアフターでしたね」
「声まで変わって…!
"見事に変身する匠お手製の収納家具に、ご家族も驚愕の表情"って感じ―。」
「……それにしても、サービスし過ぎですねえ。」
多分テレビの真似だと思うけど(私の家はNHKしか見ない)二人はキャッキャしながら、
次々運ばれてくる普段より過剰に盛られた料理にガッついていた。
そして、その後私たちはキコに言われて食堂の後片付けをちゃんと手伝った。
彼女はこういう気遣いを絶対に忘れないタイプの人間で、
それがこの先の"部活動"に影響することもシッカリ心得ているのだった。
本来なら、直感と目の前の快楽を求めて行動する突飛な星ちゃんではなく(ごめんね)、
キコが部長をするにピッタリの人材だと思うけど
最初の部長決めの段階から、それは絶対に拒否されていた。
――「って言っても。なかなか困ってる人なんていないね。」
私が声を掛けると、キコちゃんは捲っていた単語帳をポケットにしまいながら振り返る。
「そうですねえ。でも、どうでしょう。人間何かしら困っていることはあると思うんですけどね。
夜ちゃんは、どうですか。」
「ええっ!私ぃ?」いきなり振られてびっくりしてしまった。
「わ、たし、はあ…うーん、どうだろ。」
困っていることといえば、好きな人のこと……だけどコレは、誰にも言えないことだった。
「やっぱり、ありますよね。」
「はあ。」
否定できなくて素直に頷いてしまう。
顔が真っ赤になってなければ良いんだけど。
「キコにも、あるんでしょ。」
「…あるにはありますが、誰にも解決できないことですね。」
「だよねえ、大半がそうなのかなあ。」
昼休みにキコが言っていた、人命救助みたいな方が、
他人の悩みや迷い事を解決するよりもよっぽど現実的、ということだろう。
「あ、そっか。だったらグラウンドか体育館に行こうよ!」
私たち二人の会話を聞いているのかいないのか解りかねる様子で、
ピロティ脇に設置されていた花壇のケイトウを観察していた晴ちゃんが立ち上がっていった。
目にまだ虫眼鏡をくっつけたままなので、かなりオカシイ表情になっている。